おすすめ本









































































さよなら、「いい子」の魔法
Ella Enchanted

ゲイル・カーソン・レヴィン
Gail Carson Levine

サンマーク出版


エラは生まれつき”従順”の魔法をかけられた女の子。彼女が生まれたときに、考えの足りない妖精が誕生のプレゼントとして、誰のどんな命令に対しても従順になってしまう魔法をかけてしまうのです。友だちだろうが、両親だろうが、それこそ道ですれ違った見知らぬ人だろうが、その人がエラに対して命令のかたちで何かを言うと、彼女はそれがどんな命令であろうと、どうしてもそれに従わざるを得ないのです。もちろん、彼女はそれに逆らおうとします。苦しみながらできるだけ命令に従うのを遅らせてみたり、わざと意図とはずれたかたちで命令に従ったり。でも、命令に従わなければならないことにかわりはありません。妖精は頭が固くて、自分のしたことが正しいと信じ切っているので、かたくなに魔法を解こうとしません。

さて、彼女のお母さんは美しくて、聡明でユーモアもあったのですが、風邪をこじらせて死んでしまいます。お父さんはお母さんとはまったく逆で、権力とお金にしか興味がありません。お金持ちで貴族の女の人と結婚し、自らの欲望を満たそうとします。再婚相手の女の人には、ふたりの娘がいました。そのふたりの娘がエラを見下し、つぎつぎと命令をするようになって・・・

どこかで聞いたようなお話ですね。そう、このお話はシンデレラのお話の語りなおしなのです。ところが、シンデレラとはまったく逆の発想で語りなおされています。シンデレラはどんなに虐げられても、文句ひとつ言わずにみずからの意思で従っています。ところがエラは命令に従うのはだいっきらいだし、文句たらたらで、ただ魔法のために従わざるを得ないから従っているだけなのです。もちろん、その魔法の呪縛から何とか逃れようと悪戦苦闘します。ただ受け身で幸運を待っているのではありません。あくまでも自らの力で苦境から逃れようとします。このお話は、そんな彼女の戦いの物語でもあるのです。

さて、エラは王子シャーと知り合いになり、恋に落ちてしまいます。シャーもエラに好意を持ち、ふたりは親密になっていきます。シャーは若者としてはとても聡明で、行動力もあり、しかもユーモアがあってハンサム。ところが、エラは大変なことに気づいてしまいます。どんな人間のどんな命令にも従わざるを得ないとしたら、シャーと結婚したら大変なことになってしまいます。シャーのお妃になり、彼が王様になったら、彼の政敵や敵国の人間はエラに接近して、彼女から国の秘密を盗もうとするでしょう。どんなに口を固く閉ざそうとしても、たとえ国を守ろうとして秘密を漏らすよりは死のうとしても、それができないのです。つまり、シャーとはどうしても結婚するわけにはいかないのです。彼女は悲嘆にくれながらも、固い決意のもと、シャーから身を引こうとします。そうとは知らないシャーはエラに近づき、少しでもたくさんの時間をエラと過ごそうとして、彼女の愛を求めます。

これだけでも、どんなに切ないお話かおわかりいただけると思います。でも、ただ切ないだけではない。エラがものすごく毅然としているのです。決して運命に押し流されたりしない。どんなにシャーを愛していても、従順の魔法がかかっているかぎりは決して彼の愛を受け入れようとはしない。決して一時の感傷や欲望に屈したりはしない。そのところがものすごく感動的です。そして、愛の力で苦境を乗り越えようとします。

はたして彼女はシャーへの愛によってすべてを乗り越えることができるのでしょうか。彼女はシャーをあきらめなければならないのでしょうか。それとも、二人は運命を乗り越えて結ばれることができるのでしょうか。いずれの結末であるにしても、エラは決して他人まかせではありません。自らの意思で、自らの力で自分の運命を決めていくのです。結末はどうぞみなさん自身でお確かめください。一言だけ。最後の100ページはページをめくる手が止まらなくなります。

このお話は、登場するキャラクターもとても魅力的です。エラの名付け親で台所妖精のマンディが特にいいです。そのほかにも、ノーム、エルフ、巨人、ユニコーンなど、ファンタジーに欠かせないキャラクターがいっぱい出てきて、とても生き生きとしています。作者の処女作らしいのですが、そうとは思えないほどいい作品です。ニューベリー賞というのを受賞しているそうです。

☆邦訳を出している出版社が「脳内革命」なんかを出しているちょっとアレなところだったので、最初は少し敬遠しそうになったのですが、読んだらすごく感動してしまいました。悩みや精神的葛藤があって、それを乗り越えたいと思っている人にも、これはとても勇気づけられるお話だと思います。もう一度読みたいなあ。





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