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悪党ロビーの冒険
PREACHER'S BOY

キャサリン・パターソン
Katherine Paterson

白水社

ヴァーモント州の田舎町で暮らすロビーは10歳の少年。牧師の父と優しい母と姉妹と知的障害を持つ兄エリオットとの6人家族です。

 時は1899年。1900年を迎える「その日」はこの世の終わりだとロビーは信じています。彼の願望は自動車に乗ること。自動車は当時彼の住む街ではおよそその姿を見ない夢の乗り物でした。

 親友の気の良いウィリーと遊び回り、ライバルのウェストン兄弟とけんかし、少年時代を満喫するロビーですが、父の関心が兄に行きがちなことに嫉妬を覚えていました。ある日ウェストン兄弟とやり合ったロビーは、行きすぎた行為を働いてしまい、その叱責を逃れるため、また父の関心を引きたいがためもあって、以前から知り合いだったホームレスの親子と狂言誘拐を考え出すのでした。そして・・・。

 「運命の日」に対するロビーの恐怖は99年7の月に対して騒がれた時を思い出します。当時の感覚から、1900年を20世紀の最初と位置づけたこの小説は、つい先頃新世紀を迎えた私たちには身につまされる話です。まあ、今は誰も世紀が変わったから世界が滅びるとは思わないでしょうが。

 悪童ロビーというタイトルが付いていますが、私の感覚からはかなりいたずら好きではあるもののごく普通の少年です。但し、彼は小さな町の牧師の息子。当然のごとく品行方正であることが要求される立場なので、ちょっとしたいたずらでも他の少年達より深刻に受け止められてしまうんですね。彼自身それを意識していて、かなり辛いようです。そして兄エリオットの存在。優しく無垢なエリオットは家族みんなから愛されていて、特に父はエリオットがいなくなったとき、今までにない取り乱し方を見せてしまいます。それがロビーには引っかかるんですね。自分はこんなにまで愛されているんだろうか、と。

 そんなこんなで父への小さな不信が積もり積もって、ロビーはサル神論者になることを宣言します。つまり進化論を信じて、神を否定するというのです。ついでに十戒も破っても良いのだ。どうせもうすぐ世界は終わるんだから。牧師の息子が神を信じないと宣言する展開は面白いです。世界が終わると信じているロビーですから暴走は止められず、遂に事件に巻き込まれてしまうわけです。

 ちょっとマーク・トウェインのトム・ソーヤーを連想してしまう話です。でもロビーはあくまでトム・ソーヤーであって、ハックルベリー・フィンにはなれないのでした。

作者キャサリン・パターソンはニューベリー賞や国際アンデルセン賞を受賞している有名作家です。実は彼女自身が「牧師の娘」であったので、彼女の「牧師の子は辛いわ」というかつての思いが出ているのかもしれませんね。でもそれでいて牧師さんと結婚した彼女だから、やっぱり話の根底は善意に彩られているのでした。

 こういう小さな町のお話の例にもれず個性豊かな町の人々の描写が面白かったです。

☆まるごと鶏と皮も葉っぱもそのままの野菜で作ったシチューは絶対食べたくない。リアル過ぎる・・・。



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