おすすめ本


























































のっぽのサラ
Sarah,Plain and Tall

パトリシア・マクラクラン
Patricia MacLachlan

福武書店


一面に広がる大草原。父親のジェイコブと弟ケイレブと暮らすアンナの家にサラがやってきた。父親が新聞に出した花嫁募集の広告を見てやってきたのだった。サラはのっぽで美人ではないが、さっぱりしていて歌が好きな人だった。アンナとジェイコブはサラが好きになって父と結婚してくれることを願うが、サラは故郷のメイン州の海をいつも懐かしそうに思い出していた・・・。

 「ピクチャー・ブライド」という言葉があります。アメリカに渡った日本人達が、日本から花嫁を呼び寄せるのに使った方法としても有名です。これは一種のピクチャーブライドの話。でも正確には写真さえなくて、ただ新聞に出した広告のみ。そして作者の義理の祖母は現実にこうして結婚したそうなので、ほぼ実話とも言えるでしょう。

 ひたすら広がる大草原。テレビでおなじみのこの風景は、海と緑にあふれたメイン州で育ったサラにはカルチャーショックでした。全く知らない人たちと一つの家族として暮らしていくことだけでも大変なことなのに、自然環境まで全く違うのが実はサラにはもっともやりきれないことだったかもしれません。「

 「灰色」という言葉が何度も使われ、また干ばつに襲われるように、ここは渇いた大地で、緑あふれる美しい土地と言うわけではないようです。サラはひたすら海を懐かしみます。でも新しい家族と天秤に掛けた結果、サラは海の近くにはいられないけれど、海の色を側に置くことにしました。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、短い小説ながら実に生き生きと「色」が語られていると思いました。

 アンナとケイレブは幼いときに母を亡くしていて、サラを受け入れることに抵抗どころか、いてくれることを熱望しています。実の母親に対する思慕との葛藤が全くないことに驚くのですが、やはり人里離れた大草原はそんな葛藤など吹き飛ばしてしまうほど寂しいのでしょうね。そしてまた、女手がいることも絶対確かな事実。センチメンタルなど通じない厳しい現実の世界を見た気がします。

 この作品は「潮風のサラ」というタイトルでテレビドラマ化されました。主演がグレン・クロースとクリストファー・ウォーケンで、二人とも名優ですが、農夫とその妻という役柄に驚愕と恐れさえ感じたものです(笑)。二人とも(特にクリストファー・ウォーケンは)、切れたらとことん怖い俳優の第一人者の感があって、その彼らが広がる草原で農作業をして馬車を駆っているのですから、こんなのどかな話のまま済むわけがない、という脅迫感のようなものを感じてしまいました(笑)。でもそんな先入観のない方なら安心して感動できる良質のドラマです。

 徳間書店から続編「草原のサラ」が出ています。この物語では過酷な自然がリアルに語られます。どんな努力も献身も祈りさえも自然の力の前には通じない厳しさを嫌というほど味合わせてくれます。またサラがもっと強く自己主張を始めるようになるのも興味深いです。

☆広がる草原ものには、やっぱり弱い私でした。



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