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萩尾 望都


これは「トーマの心臓」のいわば番外編です。「トーマの心臓」で圧倒的な魅力を放っていたオスカーがシュロッターベッツに来る前の話です。
元気で人気者で、ニコニコ笑っていた9歳の頃のオスカー。庭に梨の花が咲く頃になるとママは結婚記念日のお祝いにと白いチョコレートケーキを焼き、パパのグスタフとママとオスカー、パパの愛犬シュミットが食卓を囲んだ平和で楽しかった日々。でもある雪の日に、ママが死に、残されたオスカーとパパとシュミットの放浪の日々が始まるのです。

シュロッターベッツに於いて、同級生より一つ年上だったとはいうものの、いつも冷静で醒めていて的確な判断力を持って圧倒的に大人だったオスカー。その彼も小さかった頃はごく普通の子供でした。パパは売れない芸術写真家で、ママはきれいで優しくて、外見は素敵な家族です。でも時々起こるパパとママの諍いがオスカーには気がかりで、家の中に自分の居場所がないように感じてもいました。そして彼は思うのです。昔パパが話してくれたように雪の上に足跡をつけながら神様が訪れて、自分にこの家にいてもいいといってくれないか、と。

オスカーと父親の関係はとても複雑です。オスカーはひたすら父親を愛して慕っていますが、なかなかその愛はすべて受け入れられない。オスカーはいつも自分と父親との危うい絆に危惧を持っています。時々父親が失踪してホテルに置き去りにされる時、オスカーは犬のシュミットがいることで安心するのです。シュミットはパパの犬だから、シュミットがいる限りパパは戻ってくる、と。でもそのシュミットが亡くなったとき、もろい絆は遂に音を立てて壊れます。

世の荒海にこぎ出すにはいささか繊細すぎたかもしれないオスカーの父、グスタフ・ライザー。およそ良い父親とは言えませんが、憎めない人です。オスカーのことも愛しているから、余計にやりきれなさが募るのでしょう。愛してなければ彼の選択肢は簡単だったでしょうから。

父親をかばい、世話を焼き、こうしてオスカーは世話好きの性格を身につけたのでしょう。母との一件があっても、性格が少々破綻していても、それでもグスタフはオスカーのヒーローで、世界で一番愛して欲しい人でした。父親の愛をひたすら求め、それでもグスタフとの別れに際しては南米の絵はがきが欲しいとしか言えないほど、自分を律してきたオスカーの最後の最後の言葉「何年でも待っていていいね」のシーンでは熱した鉄の固まりが自分の中を流れていくような思いがしたものでした。

グスタフと別れ、シュロッターベッツで最初に出逢ったのがユーリ。オスカーはまたもや愛を求めてさまようことになるのです。但し今度は地に足をつけて。


☆お隣の可愛いニーナ。何となく大人になってオスカーと再会させてあげたいと思いました。彼女が、刑事さんに言った証言が気になりました。彼女はそう思いこんでいたのか、それともオスカーの思いを代弁したのか・・・。

小学館文庫で刊行





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