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星降る夜にきかせてよ


一条 ゆかり


ぱ、ぱおー。ボクが少女マンガを紹介するなんて意外? でも実はボクは少女マンガを読む雄ゾウだったのです。こんな図体して、けっこう乙女チックなのよね。うっふん。ちなみにボクのパソコンのまわりはぬいぐるみさんたちでいっぱいです。

さて、この作品は往年の人気少女マンガ家、一条ゆかりのかわいらしい佳品。もともとは「りぼん」の別冊付録として発表されたものです。

ジュール・クレールは絵の大好きな女の子。あこがれのウィルソン画伯が名誉教授をしている大学にはいるため、ドーバーを越えてフランスからイギリスにやってくるのですが、画伯は事故で急死、そしてアイドル・グループのペニー・レインの親衛隊に入らなかったために女子寮を追い出されてしまいます。

寒空のもとを歩いていて熱を出して倒れているところを、マギーという女の人に助けられ、その人の家に住むことになります。ところが、なんとその家には未亡人が買い戻したはずのウィルソン画伯の絵がいっぱい飾ってあるのです。信じられない偶然。実はマギーこそが、ウィルソン夫人だったのです。夫の大ファンということで、ジュールはとたんにマギーのお気に入りになります。そんなところがマギーはかわいらしくて、まるで少女のよう。

ところが、偶然の一致はそれだけではなかったのです。なんと、マギーの一人息子は、ジュールが女子寮を追い出されるはめになったもともとの原因であるペニー・レインのメンバー、ローリエだったのです。もちろん、ジュールは反発します。あこがれの画伯の息子が女の子たちにちやほやされるアイドルだったなんて。しかも、ローリエは毎日べろべろに酔っぱらって朝帰りする始末。でも、周囲の人たちは、ローリエほど親孝行な子はないというのです。

互いに心を引かれていくジュールとローリエなのですが、すれ違いが多くてどうしても反発しあってしまう。ローリエは相変わらず酒の匂いをぷんぷんさせて朝帰り。そしてあろうことか、彼はパーティで特別サービスと称して、ファンの女の子たちにお金でキスを売りはじめるのです。泣いて飛び出ていくジュール。

ところが、ローリエの一見眉をひそめるような行動にはちゃんとわけがあったのです。お金の苦労を知らないマギーが、夫の死後、彼の絵を軒並み買い戻してしまったため、家計が逼迫していたのです。まるで少女のような母親にお金の苦労をさせたくないために、ローリエは酒場でバイトをして、酔って帰ってくるのでした。それだけではなく、彼は小説家を目指して、ただでさえ疲れているのに、徹夜で小説を書いている。これでは体がもつわけがありません。とうとう、ローリエが倒れてしまい、すべてが明らかになります・・・

心のすれ違いと意地の張り合い。そんなジュールとローリエが微笑ましい。ところどころいかにもマンガ的で、こんなことは現実にはあり得ないよと思ってしまうのですが、まさにマンガなのだから許されてしまう。

ボクがこのマンガを気に入ったのは、ローリエがあぐらをかいてタイプライターで小説をカチャカチャと打つところがとてもうらやましかったからです。これを読んだときは、もちろん世の中にワープロなどというものは存在していませんでした。タイプライターで小説を書くということが、ものすごくかっこよく思えた。だって、和文タイプというのはありましたけど、それで小説を書くなんて、現実的じゃないでしょ? そうか。アメリカとかヨーロッパではタイプで文章が書けるのだな、すごく便利だなと思ったものです。でも、世の中はすっかり変わってしまった。日頃、何の疑問も持たずにパソコンで文章を書いていますが、考えてみればほとんどSFですよね。

ワープロやパソコンは便利だし、タイプライターなんて、それから比べれば原始的といってもいいかもしれないけど、今でも心のどこかにタイプライターへのあこがれが残っています。パソコンなんて無味乾燥だけど、タイプには何とも言えない味わいがあると思いませんか? あのカチャカチャという音だって、耳に心地よい。だからボクは、わざわざパソコンに、キーボードを叩くとタイプのような音がするソフトを入れているくらいです。

☆このマンガにはほんのワンシーンで、弓月光の「ボクの初体験」から人浦博士と奥さんの春奈がゲスト出演しています。なつかしいなあ。「りぼん」って、付録もものすごかったよね。

集英社コミックス、集英社文庫コミック版にて刊行





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