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ロング アゴー


三原 順


「はみだしっ子」の4人を見守り、自らも子供の心を持った素敵な大人たち、ジャックとロナルドの子供時代のお話です。

大変優秀な子供だったロナルドは2年飛び級することになり、いかんともしがたい年上の同級生の嫉妬心から身を守るために「クラス内で一応の権力を持ち、尚かつ兄貴面したがるような奴」を利用していたのですが、彼が休んだその時に訪れたピンチを回避するため、本来は避けていたはずのジャックとその仲間に援護を求めてしまいます。それが彼らの付き合いの始まり。

繊細で計算高い自分に比べて、ジャックの馬鹿正直さと単細胞さと大雑把さはロナルドを辟易させますが、保身のためロナルドはジャックから2m以上5m以内のところに居続けます(笑)。駆け引きや立ち回りを知らなくて、堂々と自分の意見を口にしては問題を起こすジャックに対して、「何だこいつは」「馬鹿な奴」などと思いながらも、どうにもならない力で惹かれていってしまうロナルドが可愛いですね。ジャックは今の彼をそのまま子供にしたよう。はみだしっ子の面々に負けず劣らず深く物を考える、根は純真そのものなんだけどどこかすれている(のはロナルドか・・・)、魅力的な子供たちです。

「あいつは駆け引きがわかってなくて・・・こんちくしょうと思いながら、それでも・・・」とグレアムを評していたアンジーの姿がロナルドに重なってちょっと切なくなります。ということはジャックの方がグレアム的かな?生真面目さと馬鹿さ加減がすれすれのところで同居しているという点で(けなしているのではありません!)。

脇のキャラクターも良い味を出しています。「クラス内で一応の権力を持つ」ということでロナルドに引っかけられていたウォルターも、見ようによっては嫌な奴なんだけれど、ロナルドのお姉さまが大好きで、とてもとても憎めないキャラクター。

「たいていはジャックより神経の細やかな」ジャックの仲間達は、ジャックがポロポロとりこぼすあれこれを後ろから拾ってくれる心優しき仲間達です。大人になったジャックの家に集っている人もいるのかな。グレアムを探す時に協力してくれた無線マニアのお友達は、この時の仲間の1人でしょう。ホントの脇キャラなのに、あの人好きでしたね。

包容力があるんだけれど、どこかずれていて可愛いロナルドのお母さんや、「赤毛のアン」のジョゼフィン大叔母さんを思い起こさせるロナルドの大叔母さん。極めつけは勿論ロナルドの3人のお姉さん達です。

この姉たちあってのロナルド(笑)。後年ロナルドの言葉で語られる「誰よりも幸せになって欲しいと望んだ一番上の姉優しいアニタは、その優しさにすがるような男と結婚して苦労した。しっかり者の次姉モーリンは体の弱い子供たちに苦労した。いつか報いをうけるだろうと思っていたすぐ上の姉わがままなミリアムは、そのわがままさが良いという男と結婚した」というセリフが昔ひどく心に残り、世の中って不条理だな、と改めて思ったものです。

「ロングアゴーV」では大人になったジャックとロナルドに、運命の恋人たちパムとレティシアも登場して、少しずつ確実に紡がれていく愛の糸を見せてくれます。ロナルドの妻レティシアは、三原作品でもとても好きな女性キャラクターの1人。

 ああ、彼らにもこんな時代があったのだな、と今となっては妙に懐かしい気分。大人になって読むと、また違った視点で物が見えてきて感慨があります。そして彼らが、通り一遍の少年時代を過ごしたわけではなかったからこそ、はみだしっ子の4人を何だかんだといっても理解しようとして包み込んでくれるんだろうな、と妙に納得。

「はみだしっ子」よりももっと、子供時代のあの懐かしく、甘酸っぱく、切ない思いを思い出されてくれる作品であると言えるでしょう。


☆ジャックが媚を売ってくれるなら私も買ってもいい・・・。勿論媚じゃない、ホントのジャックの方が良いけれど。


花とゆめコミックスより刊行
白泉社文庫「三原順傑作選’80s」に収録





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