おすすめマンガ





















































摩利と新吾


木原 敏江


時は明治末期、バンカラ気風の名門旧制高校持堂院に入学した印南新吾と鷹塔摩利は幼なじみの大親友。大らかな性格のお日様少年新吾。摩利は日本人の父とドイツ人の母を持ち、それ故の苦悩を背負ったクールな少年。共に大変な美少年のこの2人、早速持堂院名物猛者連に誘われ学校生活を謳歌することになります。古き良き時代の旧制高校を舞台に心優しき野蛮人達の青春の日々を、楽しくちょっぴり切なく描く浪漫青春物語です。

寄宿舎物に弱い傾向を持つ私にはこたえられないお話です。しかも時代はロマンあふれる明治から大正。旧制高校という言葉だけでも、そこはかとないロマンを感じさせるのに登場人物がすこぶるつきの美少年ばかりときてはなにをかいわんや(笑)。男ばかりで美しいとなれば避けられない問題も出てきて、苦手な人は苦手かも・・・。でも現実の旧制高校の寮なんて、こんなに美しい世界とは縁遠くて汚い物だったんだろうな、と想像がつきます(笑)。

天の邪鬼のお気に入りは珍しいことに主人公の摩利君です。ドイツ人の血を引く彫りの深い美少年。今ならスカウトさんたちが放ってはおかないだろうそのルックスも、当時の日本では差別の対象となり、子供心に傷を負ってきました。伯爵様の子息であった摩利君でさえそうなのだから、一庶民だったらどういう扱いをされたんでしょうねえ。その摩利君を子供の頃からかばい続けた新吾君。毛唐だ、色が白い、と言われていじめられる摩利君を見て、灰をかぶって真っ白になって学校に通い続けた鉄の意志の持ち主であります。そんな新吾君を見て、摩利君が彼を自分の太陽のように感じたとしても無理からぬことでありましょう。クールな摩利君はなかなか本音を見せることはしませんが、新吾君だけはやっぱり彼には特別でありました。いつも肩肘張って、ちょっと意地っ張りで弱みを見せないで、時にはクール過ぎて冷蔵庫のようになってしまうところもあるけれど、内面は誰よりもナイーブな摩利君に絶対一票!

そして個性豊かな先輩や仲間達。本当に高校生?という落ち着きぶりが怖いくらいの夢殿先輩。たおやかでゴーイングマイウェイだけれど見るところは見ている紫乃先輩。伊賀の忍者の末裔で、長髪がきれいで思いこんだら一途だけれどちょっとお茶目な桃太郎先輩。新吾や摩利と同級生だけれど、年上でその分酸いも甘いもかみ分けた麿さんなど。4巨頭会談と称して作戦会議などを行うこの4人、しびれるキャラクターが揃ってます。

「これを至福の時という」と作者が語った青春時代は風のように過ぎていき、摩利と新吾はヨーロッパ留学へ。残された仲間も自分の道を歩み始め、やがて関東大震災、太平洋戦争と時代は怒濤のうなりへと流れていきます。明治、大正、昭和と日本が歩んだ浪漫と暗黒の時代に否が応にも巻き込まれずにはいられなかった彼らの人生を思うと涙を禁じ得ません。

でもいつどこの国でも、どんな状況にあっても、彼らを支えた青春というきらきら光る宝石箱の中に詰め込まれた思い出。そんな時代を持てた彼らをちょっぴり羨ましくも思います。

☆風魔教授、ヘルメス教授、教授陣も渋くて素敵よね。

白泉社コミックス、文庫で刊行





(C) 2012 Paonyan?. All rights reserved