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ムーン・ライティング


三原 順


ある日ディーの元に幼なじみのトマス・リブナーから手紙が届く。「親愛なるディー、もし君がボクと・・・そしてボクの祖父に関する打ち明け話を覚えていてくれたなら・・・そして君のあの時の約束がまだ効力を持っているならボクを救いに来て欲しいのだ」。早速ディーは車を飛ばす。行き先は人里離れた湖畔でトマスが経営するレストラン「ムーン・ライティング」。そこでディーが見たのは、ガウンを着てグラスを傾ける豚の姿だった・・・。

おなじみ三原順のはみだしっ子4人組と並ぶ人気キャラクターDDとトマスの物語。こちらが先か「Sons」が先かは、卵が先かにわとりが先かみたいなものでして、書かれたのはこちらが先で私もこちらから入ったのでやはりこちらを先におすすめします。

単細胞的性質を持った愛すべきディー。三原順作品中では珍しくあまりひねていない愛すべきキャラクターです。いや、ひねていないわけではない。物を考えないわけでもない。でも相棒がトマスでは、明らかにディーがボケのキャラクターを受け持つことになります。少年時代の友情と約束をひたすら守る今時珍しい良い男ですよね。
そしてトマス。子供時代から恐るべき美食家で皮肉屋で、でもハンサムで人目を惹く男。神経質で先の尖った錐みたいなところがあって、友だちでいるのはさぞや大変でしょう、とディーの肩を叩いてあげたくなるような人物です。でも私はトマスが好き(笑)。

トマスのお爺さんは伝説通りの狼男でした。満月の夜になると狼に変身するのです。しかしお爺さんは人間の女性と結婚し、生まれたトマスのお父さんは半月の夜に猪になりました。血が薄められたのです。そしていよいよトマスの番が巡ってきました。やはり人間の母を持つトマスは、月が4分の1に欠けた夜に・・・豚になりました。

子供の頃にお爺さんが狼に変身するのを見たトマスは、それを嫌がると言うよりむしろ憧れていました。何故なら狼は孤高の動物で、少年にとって格好良さの代名詞だったからです。狼のふさふさのしっぽはトマスの憧れをそそり、いつか自分も狼男になるのだというのはトマスの密かな優越感でさえあったのです。ところが、ふたを開けてみたら彼が変身したのは豚!美食家トマスにとってはお料理の素材であり、羨ましいとしたらトリュフを探すその能力ぐらいの物で・・・。
同じ人目を忍ぶ生活でも、変身するのが狼であるならまだ救いがあるでしょう。トマスはその間、狼の生活、狼の崇高さ、狼の孤高を堪能して自分だけの優越感をくすぐることが出来るのですから。でも豚に変身したことがトマスを苦しめます。「ボクが変身するのは生殺与奪の権利を人間に握られる家畜なんだ」と。このトマスの苦悩は理解出来ないことはないんですが、やっぱり考えると笑えてしまって(笑)。

ディーは昔の約束を実行すべく、豚に変身したトマスを人目から守りますが、豚はきれい好きの名の通り、石鹸を使えだの、客室を汚すだの、とトマスはディーを閉口させます。近所の雌の飼い豚スザンナに横恋慕され抱きつかれるし、変身したトマスを自分の飼い豚と勘違いした飼い主は怒鳴り込んでくるし、ハチャメチャの大騒ぎが繰り広げられます。挙げ句にディーは豚となったトマスを抱えて大逃亡。

豚に変身したトマスは鞠のようにはずみやすくなって、ポーンポーンと飛び跳ねて移動できるというおまけつき。もう笑えて笑えて仕方がありません。

爆笑続きのユーモアあふれるファンタジーです。でも勿論様々なスパイスの味付けを忘れてはいません。「Sons」の少年たちが大人になった話なのに、あの頃より子供っぽかったりするところが面白いですね。とにかく愛すべきキャラクターたちがアクション満載で大活躍のこのお話、三原順ワールドに関心を持つ人だったら絶対この妙味をわかっていただけるでしょう。


☆豚になった姿でエプロンしてシチューを作っているトマスって可愛い・・・。


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