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虹の彼方にあったもの
・・・「なつかしい故郷へ 前編」
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「なつかしい故郷へ」の原題は「There's No Place Like Home」という。長い時を経て尚愛され続けるアメリカ児童文学の金字塔「オズの魔法使い」で、ラストに主人公のドロシーが家に帰るときに唱えるセリフのことだ。そしてゲストはレイ・ボルジャー。1939年に映画化された「オズの魔法使い」でかかし役を演じた人だ。つまり「なつかしい故郷へ」は「オズの魔法使い」へのオマージュにあふれたエピソードなのだ。
映画「オズの魔法使い」でドロシーは見たことのない「虹の彼方」に思いを馳せる。そこは白黒画面で描かれた灰色のカンザスとは違った理想郷としてドロシーの心を捕らえる。インガルス一家もまた傾いた街ウォルナットグローブを離れ、理想郷とまではいかないにしても今までとは違う何か、お金で得られる幸福を求めてウィノカの街に住むことになる。しかし、その街の現実は厳しいものだった。金銭欲と物欲が渦巻く街。生きていくためには自分を捨てて馬鹿になることを要求される街。自分たちの暮らしは自分たちで築いてきて、それ故のプライドを持ったインガルス一家にはそれは耐え難い生活だった。それに気づいた時、彼らは思う。ウォルナットグローブこそが故郷だ。帰ろう、と。
前編のラストでスタンディッシュさんの酒場が火に包まれる。それなのに、チャールズ以下みんな笑いながら見ていて消火に手を貸そうともしない。これには視聴者からの批判がかなり出ている。確かにおよそ誉められたことではない。これがウォルナットグローブであれば街の人々総出の消火作業が見られたはずだ。例えスタンディッシュさんが嫌な人であろうと、見捨てて良いはずがない。道徳的には許されないことだ。そもそもスタンディッシュさん自身が人を人とも思わない扱いをしてきたのだから、見捨てられて当然という反論もある。駆け付けた消防車は役に立たず、それもこれもスタンディッシュさんが予算を削ったからだというおまけまでついて、悪いことをすると自分に返ってくるという教訓なのかもしれない。
私はこのラストシーンを一種の寓話と見る。炎上した酒場は酒、賭事、欲望が渦巻く悪の巣窟。だからこれを炎上させて悪を滅ぼす、という少々乱暴な見方も出来る。
次にあくまで「オズの魔法使い」へのオマージュとも取れる。ドロシーは家ごと悪い魔女をつぶしてしまったり、残った悪い魔女にも手痛い一撃を加えて大円団になる。だから、インガルス家も悪い魔女役だったスタンディッシュさんに自ら手を下すことは出来ないにしても彼に降りかかった災難を見届けて、「さあ故郷へ帰ろう」となる。
そして火事の原因として夜空に打ち上がった花火は、そもそも独立記念日のお祝いの行事だった。この日はインガルス家と友人達にとっての新たな独立記念日で、それを象徴するのがあの花火だった、という見方も出来る。
「オズの魔法使い」はアメリカ人の心に深く根ざしている話だから、ここはいつもの道徳的観念からちょっとはずれても許されるエピソードなのだろう、と勝手に思っている。
千鳥足で歩くレイ・ボルジャーはやっぱりかかしを彷彿とさせて懐かしさで胸が熱くなった。そう言えば音楽のデビッド・ローズは確か以前ジュディ・ガーランドと結婚していたことがあったはず。やっぱり最初から最後までオズ色に染まったエピソードなのだ。
☆そしてトビーさんは、ギャンブル嫌いになる脳みそをもらいにオズの魔法使いを訪ねてエメラルドの都に旅しました、とさ。
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