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ダンサー・イン・ザ・ダーク



DANCER IN THE DARK


2000年デンマーク映画
カラー  140分


監督 ラース・フォン・トリアー

出演 ビョーク カトリーヌ・ドヌーブ
デビッド・モース ピーター・ストーメア


チェコから移民してきてアメリカの工場で働くセルマは、ミュージカルを見るのが大好きで、自らも「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台に立つことを夢見ていた。しかし、セルマは遺伝性の目の病気にかかっていて、あとわずかで失明する運命にあった。セルマは、工場の夜勤も務め、内職までしてせっせとお金を貯めていた。それは12歳の息子ジーンに、目の手術を受けさせ失明の危機から救うためだった。しかし、セルマが必死に貯めたお金が盗まれ、そのお金を取り戻そうとしたセルマは事件に巻き込まれ刑務所に送られてしまう・・・。


これはミュージカルです。しかし、従来のミュージカルの感覚とは相当違います。楽しく明るいミュージカルを期待する方は見ない方が良いかもしれません。内容があまりにショッキングなのです。

工場で働きながらセルマがミュージカルの夢想にふけるところ(但し事故が怖い!)や、走ってくる列車の上で展開されるダンスや歌は、確かにミュージカルらしい華やぎを少しは感じさせてくれます。しかし、ミュージカルの最後の歌は嫌いというセルマが歌う「ミュージカルの最後から2番目の歌」など、それに込められた意味を知ってしまうと何とも複雑きわまりない気持ちにさせられてしまいます。

セルマは罪に問われますが、闘おうとはしません。そこがどうしても引っかかります。セルマが再審請求の際に出した結論は納得できます。でも、そこまでに至る過程がどうにも納得出来ないのです。息子のために必死にお金を貯めたセルマが願うのは、息子が手術を受けて失明を免れることだけです。それは大きな母の愛。というよりは、息子への贖罪も込められたものでした。しかしながら、その後息子のジーンはどうなるのでしょう。12や13で唯一の保護者である母を失って・・・おまけに母が犯罪者の汚名を着たままでも、温かく迎えてくれるほど世間は優しいものではないでしょう。自分の務めはただ息子の目を救うことだけ、と思いこんでしまっているセルマに、どうにも世間知らずというか感覚のズレを感じてしまうのは私だけでしょうか。

そういった所に引っかかりを感じてしまうと、気持ちを引きずってしまうので、これは一種の寓話と見るのが良いかもしれません。セルマ自身いつも夢見ている人でしたから、現実の細々としたことはちょっと忘れて見ることが大事なポイントのように感じました。

ビョークは・・・何といったら良いのでしょうか。一度見ただけは何とも評価出来ないというのが正直なところでした。彼女の絵に描いたような悲劇に目が行ってしまって・・・。ただ、大きなバイタリティを感じる人だな、と思いました。

カトリーヌ・ドヌーブがほんの少しだけれど、歌い踊るところは懐かしさを感じました。本人の歌だったのかどうかはわかりませんが。あのゴージャスな美女が年齢を重ねたとはいえ、下町の工場で働く普通の中年女性を演じているのはちょっとびっくりしましたが、工場でのダンスは、彼女が若かりし頃実の姉フランソワーズ・ドルレアックと共演した華麗な「ロシュフォールの恋人たち」を彷彿とさせて感激です。

それに歌い踊るデビッド・モース!大した踊りというわけではないけれど、でも仰天!彼はとても好きな俳優さんだから、本当はこんな役をして欲しくなかったです。

そして、ジョエル・グレイ。「キャバレー」のあの人が、裁判所で歌い踊る姿にはやはり懐かしさいっぱい。裁判所の机の上でのタップなど、往年のミュージカルのエッセンスを確かに感じるところがいっぱいであったことも否定できません。
昔のミュージカルとは趣が違うものの、この映画のミュージカルシーンはそれなりに素敵です。

セルマを愛して支えるピーター・ストーメアも良かったですね。カトリーヌ・ドヌーブといい、セルマにはこんなに味方が揃っているんだから、余計にもう少し何とか・・・って思ってしまうのですが。

セルマが夢見た「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台。素人公演だと思いますが、舞台の練習シーンもいっぱい。勿論、歌もいっぱい。監督の「サウンド・オブ・ミュージック」にはタップはいらないんだ、という台詞には笑ってしまいました。でも、練習や家でセルマがひたすら歌う「サウンド〜」ナンバーは良かったけれど、後半に出てくる苦しみを忘れるための「私のお気に入り」は辛かったですね・・・。

素人っぽいカメラワークは「ブレアウィッチ〜」以来の流行なんでしょうか?映画館で見た人の中には酔ってしまった人もいるそうですが、私もちょっと苦手です。

賛否が相当に分かれた映画だそうです。ミュージカルシーンは見応えあり。あとは、いかにストーリーを自分の中で消化出来るかで、好きか嫌いかが決まるのではないでしょうか。


☆そもそも、貯金は空き缶でなくて銀行に預金すればこんなことにはならなかったのに・・・。それに貴重な手術代をいきなり医師に手渡すのも変だし、領収証は法的に有効な形でもらわなくていいのか?・・・とついつい現実的なことばかりに眼が行ってしまって困りました。






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