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過去のない男



EMIES VAILLA MENNEISYYTTA

2002年フィンランド・ドイツ・フランス
カラー  97分
 
監督 アキ・カウリスマキ

出演 マルック・ペルトラ カティ・オウティネン
  ユハニ・ニユミラ アンニッキ・タハティ


列車に乗って町に流れて来た男が、夜の公園で暴漢に襲われて瀕死の重傷を負う。一度は死を宣告されながら奇跡的に生き延びた男は、病院を抜け出しコンテナで暮らす一家に救われる。男は全ての記憶を失っていた。彼はそこに生活の基盤を築き、コンテナの家を借り、仕事をし、救世軍の女性と付き合うようになる・・・。


九死に一生を得たはいいものの、自分の名前も住所も家族も過去の暮らしの一切の記憶を失ってしまったら?自分はどこから来た誰なのかと毎日自問自答し、微かな記憶を呼び覚ますためにあちらこちらさまよって自分のルーツを求めようとするものではないでしょうか?ところが、この男性はごく自然に自分の運命を受け止めて、着々と自分の暮らしを築いていってしまうところが異色です。彼を助ける人たちが、また一風変わっていて、最初に彼を助けたコンテナの一家の主人はわずかな稼ぎが入ると飲んでしまうタイプか?彼に連れられて行った金曜日の「ディナー」で救世軍の女性イルマと出会い、男とイルマは不器用に付き合うようになるのです。一方で、コンテナの家を借りた男は、粗大ゴミの中からジュークボックスなどを拾ってきてそれなりに快適な我が家を作り出します。野菜を植えて食料にしたり、電気を電柱から引っ張ってきたり、結構ちゃっかり生きていきます。職安にも行きますが、自分の名前さえわからない男は仕事を得ることも出来ません。イルマの親切で、救世軍でまともな服を貰い救世軍の職ももらった男は、イルマとの食事やキノコ採りなどささやかなデートに喜びを見いだします。さらに、お堅い音楽しか奏でない救世軍のバンドに、自分の家のジュークボックスを聞かせロックを演奏させたりと何故か大活躍。こうなると、楽しいとしか言いようのない生活。

暴漢に襲われて全ての記憶をなくすなんて悲劇の限りなんですが、彼にとって何が幸か不幸かわからなくなってくるところがミソ。だって、彼は見事に今の生活に馴染んでしまって、失業者などであふれているその地域でも地盤を築いてしまうのです。友だちにも恵まれるし、ハンニバルという愛犬まで得てしまいます。ただ、やっと職が得られそうになって銀行に行ったら、またとんでもないことに巻き込まれ・・・本当に彼の場合、何が幸か不幸かわからない。

人生は前にしか進まないのだから過去なんか関係ないさ、とばかりに開き直って生きていく彼と、そんな彼を何の違和感なく包んでいくイルマ始め周りの人々。特に、救世軍の寮で寂しい生活を送っていたイルマが、マスカラをつけてお洒落して男との初めてのデートに臨むシーンなど、ちょっと胸がジーンとしてしまいます。イルマも仲間たちも、男の名前や職業やバックボーンなどには目もくれず彼自身が気に入ったのですよね。でも、そんな彼の過去って本当は?

自分は誰なんだ〜!って決してあがいたりしないで、名前がわからないと就職や銀行口座開設に不便だなあ、とくらいにしか考えていない男の淡々とした様子が凄く心に残ります。「バラは違う名前で呼ばれても芳しい」ではないけれど、この男がどんな名前であってもその彼のキャラクターは愛される・・・のかどうかは、最後まで見てのお楽しみです。

カンヌ映画祭でグランプリを獲ったフィンランドの鬼才カウリスマキが綴る、心優しくなる作品です。


☆電車の中で食べるお寿司に日本酒、バックにかかっている妙な日本語の歌がいとおかし。







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