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わが谷は緑なりき



How Green Was My Valley

1941年アメリカ映画  20世紀フォックス   白黒118分

監督 ジョン・フォード
出演 ウォルター・ピジョン モーリン・オハラ ドナルド・クリスプ
   ロディ・マクドウォール バリー・フィッツジェラルド
サラ・オールグッド


冒頭、ロディ・マクドウォールとモーリン・オハラが「ヒュ〜」「アンハ〜ド」と互いの名前を呼び合うこだまのような声が耳を離れない。西部劇の巨匠ジョン・フォードが撮った詩情豊かな傑作です。

 ウェールズの炭坑町で暮らすモーガン一家。一家の男子は皆炭坑で働き、まだ少年のヒューだけが学校に通っています。姉のアンハードは新任牧師に心惹かれていきます。炭坑は不況で、労使闘争なども起きてきて父親と息子達の対立が始まります。そして炭坑事故・・・。豊かさとは縁遠い炭坑町の片隅で細々と生きる一家の愛情と勇気の物語です。

ロディ・マクドウォールは子役スターは大人になったら大成しない、というハリウッド伝説をうち破った数少ない1人でしょう。大スターではありませんでしたが、着実に地歩を固めた人でした。「猿の惑星」のコーネリアスと言えば皆さんにもわかるでしょうか。これは彼がまだ子役の頃に出演した大傑作です。

 舞台は炭坑町です。およそ明るいイメージからはほど遠い世界ですが、これが白黒映画で描かれるとまた暗いのです(笑)。でもとてもリアル。町の男達はほとんど炭坑で働くという世界で、主人公のモーガン一家も例外ではありません。昔気質で、家では絶対的な家長でただ黙々と働く父親と、時代の波に乗って組合結成に動き出す息子達との間に生まれる対立。ジョン・フォード世界で良く見られる父と息子の葛藤はここでもリアルに描かれます。父はひたすら尊敬の対象であるまだ幼いヒューだけは例外。でもそのヒューも炭鉱事故を経て、驚くほど大人になり男の責任を負おうとする姿には胸が熱くなります。

 ヒューのほのかな憧れである長兄の妻に「サウンド・オブ・ミュージック」のシスターマルガレータ(最初修道院で唯一マリアに味方していた人、そしてナチの車に細工した1人)役のアンナ・リーが扮しています。24年も前ですからそれはそれは若くて清楚です。

 姉のアンハードにはジョン・フォード映画の女性と言えばこの人、モーリン・オハラが扮しています。今回は鉄火のイメージではなくて、激しさを内面に押し隠している女性の役です。牧師ウォルター・ピジョンとのかなわぬ恋は胸を締め付けますが、彼女の選んだ現実的な決断も今なら理解できます。

 家長の風格漂う昔気質の父親ドナルド・クリスプも渇いた良い味を出しています。この年のアカデミー助演男優賞を獲得した名演技です。
 楽しいことも不幸なこともすべてひっくるめて少年時代のその時を至宝のように思い起こすヒュー。過酷としか思えない状況が続くのに、それでもヒューの心は真珠の輝きを持っているのですね。

 ジョン・フォード映画ではあってもアクションも勿論決闘もない純粋な家族愛の映画です。古いからと毛嫌いしないで是非御覧下さい。

☆映画館でこの映画を見たとき大変感激しました。その余韻冷めやらぬうちに隣の座席に置いていたパンフレットの上に見知らぬおじさんが座ってしまいました!大好きな映画だけに勿論パンフレットは保存版。どうしても気になって、もう一冊買ってしまいました。






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