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美女ありき


THAT HAMILTON WOMAN

1940年イギリス映画
白黒 128分
 
監督 アレクサンダー・コルダ
出演 ヴィヴィアン・リー ローレンス・オリヴィエ
   アラン・モーブレー グラディス・クーパー
      ヘンリー・ウィルコクソン サラ・オールグッド


19世紀の足音が迫る頃。ナポリの英国大使公邸にエマ・ハートという美女が母親と一緒にやってくる。大使の甥の恋人だった彼女は、その甥に裏切られ大使の求婚を受け入れてレディ・ハミルトンとなる。ナポリで華やかに暮らす彼女はある日ナポリ王に援軍を求めに来たアガメムノン号艦長のホレーショ・ネルソンと運命的な出会いをする。互いに結婚している身でありながら、激しい恋に落ちていくエマとネルソン。そして時代は、ナポレオンとの激しい戦いへと移ろっていく・・・。


トラファルガーの海戦で有名なネルソン提督とエマ・ハミルトンとの運命の恋を描いた大ロマンスです。主演のヴィヴィアン・リーとローレンス・オリヴィエも、30年代にこの映画を地でいくような不倫ロマンスの末に結ばれており、ついつい俳優と劇中人物が重なってしまう映画でもあります。当時のヴィヴィアンとオリヴィエにとっては、結婚して役者としても絶頂期を迎えた時でもあり、ハリウッドでも共演を果たせた「世界は二人のために」映画であったかもしれないなあ、などとも思ってしまいます。

美貌に恵まれたエマ・ハミルトン役のヴィヴィアンの美しさもまさしく絶頂でありました。エマの悲劇の原因はその美貌なのでしょうか。美貌ゆえに男性に愛され、捨てられ、再び愛され・・・流転の人生をさまようことが運命づけられている彼女があまりにも悲しい。女性としての武器に恵まれすぎた故なのかもしれません。エマは女性としての嫉妬心の存在さえも忘れたかのようにあまりに無邪気に振る舞います。レディ・ネルソンのいる部屋に華やかにやや騒がしく入ってくる様などその典型。人のことは気にしない、人の心も気にしない、自分の思うままに振る舞ってしまうエマの姿はどうしてもスカーレット・オハラの姿とも重なってしまい、ヴィヴィアンのあの無邪気さすれすれの危うさがそれに輪をかけてしまい、女性としては何とも複雑な気分になってしまうシーンです。まるで壁に据え付けられている暖炉の如く、エマの前では姿を失いながらも毅然とした態度を崩さないグラディス・クーパーの静かな演技が心に残ります。

自分の父親の世話は妻に任せきりで不倫に走り、命令を無視してエマを助けにナポリに走るなどエマに心底ぞっこんのくせに、愛に生きることも仕切れないで軍人であることをやめられないネルソン提督の姿もちょっとどっちつかずの気がして(悪く言うと何かと無責任)、この二人のロマンスは今一つ共感出来ないのですが、まあ英雄も人間だということで・・・。

しかし映像的にはとても美しい映画です。ナポリの火山の噴火がエマ自身の心の火口を思わせてくれたり、2世紀にわたるキスなど、ロマンスとしてのエッセンスはぎっしり詰まっています。また、ヴィヴィアンのドレスがどれもエレガントで美しいのですね。質実剛健なイギリス夫人を地で行くレディ・ネルソンの地味な印象とはあまりに好対照。まさしく、ぱあっと画面に咲いた深紅のバラであります。

とにかくヴィヴィアン・リーとローレンス・オリヴィエ。この世紀のカップルを見るというだけでも十分に満足出来る映画であります。


☆ハミルトン大使は美術品、骨董品が大好き。命とも言えます。所蔵のヴァン・ダインの絵の位置を執事が壁際で直すシーンは思わず涙が。何故にかは見てのお楽しみです。






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