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真昼の決闘



HIGH NOON


1952年アメリカ映画
白黒 84分  

監督 フレッド・ジンネマン

出演 ゲーリー・クーパー グレイス・ケリー
トーマス・ミッチェル ロイド・ブリッジス
ケティ・フラドー


西部の小さな町で結婚式が執り行われ、町の保安官のウィルと美しい新妻エミーは町の人々に祝福されて新しい生活に踏み出そうとしていた。そこへかつてウィルが逮捕した無法者ミラーが刑期を終えて町に帰ってくるという知らせが入る。ミラーは正午に到着する列車に乗ってくるという。駅には既にミラーの弟と子分たちが迎えに出ていた。エミーと一緒に馬車で町を出る予定だったウィルは、保安官としての責務を全うするために、町に戻る。そして町の男たちに助力を頼むが、町長たちは町を出るようにと薦めるだけで誰も手を貸そうとしない。暴力を嫌うエミーは、ウィルを置いて町を出てしまう。孤立無援のウィルは1人で4人の無法者相手に闘いを挑むしかなかった。


善と悪との対決というのは多くの西部劇のテーマです。そして、また西部という辺境の地にあっては住民同士の一致団結、助け合いというのもまた欠かせないテーマであります。それを見事にうち破ったのがこの作品です。
自分を憎む無法者に再び立ち向かおうとする保安官。彼は自分が作り出した町の平穏を破られまいと行動するのですが、今まで友達であった筈の町の人々は突然手のひらを返したように協力を拒みます。町の人々にしてみれば、ウィルが町を出ていってくれれば余計な撃ち合いはなくなるはずで、もめ事に巻き込まれて命をなくすのはまっぴらというわけです。確かにこれにも一理はあるのです。ウィルがいなければ、ミラーは復讐をあきらめてどこかへ行くか、あるいはあくまでウィルを追っていくかどちらかでしょう。だったら、ウィルの行為は思いっきりお節介なわけです。でも、もしミラーがウィルがいなくなったこの地で我が物顔に振る舞い始めたら?そこまでは皆考えていない。とりあえず目先の平和だけを願っているんですね。一方のウィルは自分がこの町の平和を保ってきたんだから、あくまでそれを守る義務があると考える。ウィルと町の人々の考え方が全く噛み合わない中で刻々と時間が過ぎていきます。

この映画は現実の時間と上映時間が同じなことがキーポイント。画面に映る時計の針の動きは、見ている観客の経験する時間とすべて一緒なのです。だから、より緊迫感が盛り上がります。

旧友を訪ねても居留守を使われ、ただ1人やってきた助っ人は他に誰も助けがいないと知ると「悪いな」と言いつつ帰ってしまう。ウィルは全くの孤立無援の状態に置かれます。ついさっきまで友達として仲良くやってきた人々に、最も試練に立たされた時に門戸を閉ざされてしまったら?そしてただ1人の味方かと思った新妻のエイミーは徹底的な暴力否定主義のために、ウィルに一緒に町を去ることを懇願し、それが聞き入れられないので1人町を出る決意を固めます。

自分が思いを寄せる酒場の女性がウィルにまだ未練があることから、対抗意識も手伝って自分が闘うといきり立つ若者が1人います。彼だけは一応味方と言えなくもないのですが、結局は自意識過剰な若造。ウィルは彼を殴って気絶させてただ1人決闘に立ち向かいます。この若造扱いされるのが、ロイド・ブリッジス。ゲーリー・クーパーに比べれば確かに若造かも。でも、隔世の感がありますね。

中年をとうに過ぎたすこしくたびれた感じさえする保安官ウィル役のゲーリー・クーパー。年を取ったとは言っても、クーパーのことですから孤高のヒーローが格好良い。人が姿を隠してそれこそタンブルウィードでも転がっていそうな町に、ただ1人動き回るクーパーの長身
が映えてそれは格好良い。刻まれた皺や苦悩の表情も、彼がスーパーヒーローではなく、恐れも不安も持っている等身大の人間であることを表していて好感が持てます。この役は当初、グレゴリー・ペックに来たと聞きますが、他の契約で断ったとか。ペック&グレイス・ケリーのコンビも見てみたかったとは思うけれど、やっぱりまだ若かったペックにはここまでの悲壮感は出せなかったかなとも思います。年を重ねたクーパーならではの味が見事でした。ちなみにクーパーはこの役でアカデミー主演男優賞を受賞しています。

もう一つ忘れてならないのがグレイス・ケリーの美しさ。まだ新人だったグレイスですが、白い花嫁衣装がいかにも清楚で、この世にこんなに美しい人がいたんだなあ、と思わずため息がもれるほどでした。母がグレイスの大ファンで、私が子どもの頃この映画がテレビで放映される時に「絶対見なさい」と言われ、どれどれと見た映画ですが全く見て良かった。ヒッチコック映画でのカラーのグレイスの美しさも素晴らしいけれど、白黒であるこの映画の彼女は天上の美のようにさえ感じます。クーパーとは相当年の違うカップルではありますが、まさしく美男美女。ため息が出るほど絵になるカップルです。

テックス・リッターの主題歌「ハイ・ヌーン」も素晴らしい。数ある西部劇の中でも、1、2を争う名曲です。

短い上映時間の中でも張りつめた緊張。男の孤独。人々のエゴ。何とも皮肉で見事なラストシーンまで一気に走ってしまう西部劇の傑作です。


☆悪役4人組の中にリー・バン・クリフもいるんですよね。彼もこうした悪役をいっぱい経験して一つずつ階段を昇ったんですね。






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