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黒い絨氈



THE NAKED JUNGLE


1954年アメリカ映画  パラマウント
カラー 95分

監督 バイロン・ハスキン
出演 エリナー・パーカー チャールトン・ヘストン
エイブラハム・ソファー
ウィリアム・コンラッド


1901年、南米アマゾン川流域に大プランテーションを持つライニンジャンの元にニューオリンズから花嫁がやってくる。ライニンジャンの依頼により弟がアメリカで見つけたその人ジョアンナは美しく洗練されて教養もある申し分のない女性だった。しかし、花嫁を迎えにも行かなかったライニンジャンは夜彼女に対面して、その高慢さをむき出しにしてジョアンナの反感を買う。何故ジョアンナほどの人がこんな奥地に率先してやってきたのか、それには何か訳があるはずだと疑うライニンジャンは何かと探りを入れ、遂には彼女が再婚だということを探り出す。その事実に怒るライニンジャン。遂にはジョアンナをアメリカに送り返すことにする。しかし、その頃付近では数百年に一度襲うという自然の驚異が迫っていたのだった・・・。


ハリウッドでは50年代、辺境物とでもいうのでしょうか、アマゾンやアフリカ奥地に題材を求めた作品が流行しました。この映画もそうした一本ですが、その中でも代表的な作品と言えるでしょう。製作は50年代SFの大家と言われるジョージ・パル。当時の最先端のSFXで「宇宙戦争」などを作り世を席巻した大物です。監督のバイロン・ハスキンもジョージ・パルと組んでいくつかそういったSFを監督しています。それだけにクライマックスでの迫力はさすが。今見てもあまり古さを感じさせないんですね。

チャールトン・ヘストン演じるライニンジャンは、瀟洒な屋敷をアマゾンの奥地に構えながら孤独な生活を送っていました。アメリカに住む兄弟に頼んで花嫁を選んでもらってその彼女ジョアンナがやってくるところが冒頭です。写真花嫁どころか、どうやらこの2人写真さえも見たことがないよう。暑い未開の大地にパッと花開いた大輪の白バラのようなエリナー・パーカー演じるジョアンナに心惹かれながらも素直になれないライニンジャン。猜疑心の強い彼は、彼女の欠点を知ろうとあれこれ詮索する始末。挙げ句彼女が再婚であることを知って激怒。ジョアンナは言葉厳しくライニンジャンをあしらい、2人は最初から険悪なムードになります。ライニンジャンは新品大好き男。19歳で入植して、未開の土地を一から耕してやがて邸宅を建て、家具も何もかも皆新品を揃えた人。ピアノも注文してジョアンナが弾くその時まで新品で誰も触ったことがなかった。そんな俺なのに、妻が新品じゃないなんて!と激怒するライニンジャンに、「ピアノだって、弾きこなされたものの方が良い音が出るんですよ」と逆襲するジョアンナの見事さ。さすが、こんなアマゾンの奥地に一人乗り込んでくる度胸があるだけの女性。ちょっとやそっとのことでは負けません。

やがてライニンジャン自ら破局を申し出て、ジョアンナをアメリカに返すと言いだします。そのための旅に出発した時、すでに自然の驚異が迫っていたのです。その名は「マラブンタ」。数百年に一度移動する蟻の大群で、行く手にあるものは何もかも木も草も家畜も人間さえも食い尽くしてしまうというまさしく動く絨毯なのです。このマラブンタが移動していく場面で、前述ジョージ・パルの特撮が生きてくるわけですが、「黒い絨氈」という邦題は、実にその様子を見事に表していて秀逸だと思います。

自分が作り上げた物を守るためにライニンジャンは自分の土地をマラブンタから守り抜くことを決意します。それは一歩間違えば死を意味することだったのですが、自分が15年かけて作り上げたこの土地こそライニンジャンにとって命そのもの。あまりに無謀とは思うけれど、その気持ちは確かにわかります。危機に瀕して、初めてライニンジャンは素直な気持ちに戻っていけるところがちょっと可愛いですね。

とにかくエリナー・パーカーが美しいです。アマゾンに降り立った時の白いドレス、白いパラソル。きらめく金髪。ピアノ前に座って音楽を奏でる姿のたおやかさ。黒いドレスも美しいし、ウエストのくびれたジャケットにロングスカートというカジュアルな服装もまた素敵。さすが、当時ハリウッド一のベストドレッサーと言われた彼女のセンスが生きています。「新品大好き男」で、まさしくこの大農園の王様であるヘストンに物怖じしないではっきり言うところも20世紀の女性の強さをまざまざと感じさせます。貴方に付いていきたい、ではなくて、貴方と一緒に幸せを築きたい、というところが彼女の性格を表していますよね。さすが度胸は一流。そんな彼女の芯の強さに比べると、ヘストンの駄々っ子ぷりがちょっと笑えます。結局男は子供で、女性の方が根っこが強いのよね、と思わせる展開。ま、この時のヘストンはまだまだ若かったし、貫録もまだちょっと足りないのかもね。

相手は小さな蟻。でもそれが何億という単位でそれもしっかり統率されて動いたら人間でも何もかなうものはありません。異変を感じ取った時に、ヘストンが何度も銃を撃って付近の様子を探りますが、最後に「相手は銃を恐れないものだ」というセリフが秀逸です。蟻は小さいけれど、銃でも追い払えるものではない。どんなに小さくても集団となれば全てを食い尽くしてしまう・・・まさしく自然の驚異以外の何物でもありません。「銃を恐れない相手」というセリフが後年の全米ライフル協会の会長の口から出るというのも皮肉なものです。

この映画は、小さい頃にテレビで見てしっかり記憶にインプットされました。それぐらい衝撃的な作品でした。ゴールデンタイムに時々放映していたから、ご覧になった方は結構多いのでは、と思います。私には忘れられない懐かしい映画の一つです。


☆本を読むのは男らしくないと思っているヘストンは、書斎に本が揃っていることについて、ジョアンナに「本は目方で買った」と言います。「500キロ分送ってくれ、と言ったんだ」。本を500キロ!いやはや、どれぐらいの量なんでしょうね。真偽のほどはご自分でご覧下さいませ。






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