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旅愁


SEPTEMBER AFFAIR

1950年アメリカ映画パラマウント
白黒 105分

監督 ウィリアム・ディターレ
出演 ジョーン・フォンテーン ジョゼフ・コットン
フランソワーズ・ロゼ ジェシカ・タンディ
ロバート・アーサー


イタリア、ローマを飛び立った飛行機が途中でトラブルを起こしてナポリに不時着した。機内で知り合ったエンジニアのデイヴィッドとピアニストのマニーナは修理の間、ナポリ観光をする。しかし、楽しい語らいのうちに時間を忘れ飛行機に乗り遅れてしまう。その飛行機がなんと事故を起こし乗員全員死亡のニュースが流れる。死亡したことになった二人は、過去を清算し二人だけの愛の生活を始める・・・。


飛行機に乗り損なった不運と、運良くキャンセル待ちで乗れた幸運が実は逆転してしまう・・・というのは良く聞く話ですが、これはまさしくそういう映画(但しキャンセル待ちで乗った人はいないけれど)。飛行機に乗り損なったがために生きながらえた二人の男女が、これを機に全てを捨てて新しい生活を始めようとする話です。

デイヴィッドは大会社を経営し、経済的には満ち足りているものの妻との仲は冷え切りそれでも妻は離婚に応じない。そんな状況に疲れ、ヨーロッパに休養に来た身でした。そこで出会った美しいマニーナは、ヨーロッパで修行を積み、アメリカで凱旋公演を控える身。初めて出逢った時から二人は惹かれあいますが、もし飛行機が何の問題もなくアメリカに二人を運んでいたら恐らくそれだけで終わったであろう二人。でも、運命は二人に大きなチャンスでもありギャンブルでもある道を残していました。最初は、どうせ飛行機に乗り遅れたのだから日程を遅らせてカプリ観光をしてから帰れば良い、という軽い気持ちだったのに、一緒に時を過ごすうちに二人の愛は深まり別れがたくなってしまうのです。二人は、飛行機事故を機に人生をリセットすることにします。カプリに構えた瀟洒な屋敷で楽しい生活を送り始めるのです。ただ、死んだことになっている二人はまたひっそりと身を潜めることにも苦慮しなくてはなりませんでした・・・。人は人生に疲れた時、新しい人生をやり直せたら、と思うことがあります。そんな夢を実現した話。それも愛する素敵な人と一緒に。

テーマ曲になっている「セプテンバー・ソング」。最初はナポリのレストランで聞いたレコード。それをうっとり聞くマニーナとそんな彼女をうっとり見つめるデイヴィッド。そこから恋は始まります。ロマンティックな曲ながら、人生の機微を切々と歌い上げるこの歌を歌っているのは、名優ウォルター・ヒューストン。ジョン・ヒューストンの父でもあります。春の楽しい時、9月の初秋、そして哀愁の11月・・・と人生を月にたとえたこの歌。短い時を精一杯生きよう・・・。デイヴィッドとマニーナの心情にぴったりフィットする歌です。それから、マニーナが弾くラフマニノフのピアノ協奏曲第2番第3楽章。「七年目の浮気」でこの曲に感じる感じない云々と言われたあの曲の使われ方もうまいです。マニーナがピアニストなので音楽的センスが抜群ということを示しているのでしょうか。この映画の音楽の使われた方はとてもうまいです。まさに名画に名曲ありき。

主演のジョーン・フォンテーンはとにかく美しい。知性と気品のある美貌に恵まれた彼女は憂いを含んだ表情が絶品です。イーディス・ヘッドによる衣装の数々、特にシルエットのきれいなフレアースカートにカジュアルなシャツブラウスを組み合わせて袖をまくっている姿に代表されるフェミニンとカジュアルの融合が素敵です。まあ美人は何を着ても似合うでしょうけれど。ジョゼフ・コットンは実直で優等生的で不倫など全く似合わなさそうな人なんですが、そんな彼がこんな思い切ったことをするあたりに彼の抱えていた人生に対するやるせなさが感じられます。スラッと伸びたスリムな体はいつ見ても素敵。マニーナのピアノの恩師のマリア・サルバティーニを演じるフランソワーズ・ロゼはまさしく圧巻です。30年代から活躍するフランス映画界の大女優。「外人部隊」「女だけの都」「舞踏会の手帖」などの貫禄たっぷりの姉御肌はこの時も健在。人生の大先輩としてマニーナに意見しながらも彼女が可愛くてたまらない様子が表れています。そして、ジョセフ・コットンの妻役にジェシカ・タンディ。初めてジョーンと会った時、その後にフランソワーズ・ロゼと会ってホッとした時の表情など女性の情感を感じさせてくれます。ブレイクするまでにはこれからまだ30年以上の歳月を要した彼女。息の長い女優さんでした。

またこの映画の素晴らしさは、ナポリなどの観光地の美しさを存分に画面に現していることにあります。それまでのハリウッド映画は外国が舞台でも、ロケはせずにスタジオのセットで済ませることがほとんどでした。それがこの映画ではロケを敢行しています。この映画の大ヒットが、その後の外国を舞台にした映画、特にイタリアロケ映画への道を開いたと言っても過言ではないでしょう。


知性と理性を存分に持ち合わせている筈の大人の男女でも、時に不条理なことをしてしまうことがあります。時に今までの自分にさよならを言いたくなることさえもあります。それもわかる気もする・・・でも・・・と心は揺れます。ちょっと人生に疲れた大人の男女にお勧めしたい恋愛映画の名作です。しっとりした情感あふれる演技のアンサンブルが最高です。現実にはなかなか跳べない大人のひとときの夢物語。貴方ならどちらの人生を選びますか?


☆この当時の飛行機って通路も狭いし、小さくてちゃちな気がするんですが、それでもヨーロッパ〜アメリカを飛んでいたのよね。当たり前だけれど。機内サービスなんかもあったのでしょうか。






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