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旅情



SUMMERTIME

1955年イギリス映画
カラー  100分

監督 デヴィッド・リーン
出演 キャサリン・ヘプバーン ロッサノ・ブラッツィ
イザ・ミランダ ダレン・マクギャビン


バカンスでベニスを訪れたジェーンは、フィオリーニ荘という素敵な宿に落ち着く。一人静かに過ごすバカンス。ある日ジェーンはサン・マルコ広場のカフェで素敵な中年男性と出会う。ほんの一瞬の出逢いだったが、ジェーンの記憶に鮮明に刻まれた彼。後日ショッピングで訪れた店でジェーンは赤いグラスが気に入り買おうとする。そこで出逢ったのはあのカフェで出逢った彼、レナートだった。その日から、二人の間にはほのかな想いが芽ばえて行く・・・。


ところは観光地としてあまりに有名な水の都ベニス。時は夏のバカンス。独身の女性。お膳立ては全て揃ってあとは王子様の登場を待つばかり。観光紹介も兼ねたようなロマンティックな一夏の恋のお話ですが、ちょっと違うところは主人公が50に手が届きそうな中年の独身女性というところでしょう。実際にキャサリンは1907年生まれなのでお年の想像はつくでしょう。若い男女が異国の地で恋に落ちる映画は数々あれど、十分に人生経験を積んだお年の方の恋物語であるところがこの映画の良さですね。若くはないとは言ってもキャサリンは十分に生き生きしています。中年の疲れなんて感じさせない。とにかく彼女はいつも知的で優雅、そして颯爽としています。この映画でもキャサリンのそんな魅力が十分に生きています。それでも、たった一人の旅行。あちらもカップル、こちらもカップルの中で時折見せるキャサリンの淋しさが何より胸を打ちます。カップル同士が遊びに行くのに同行しようとしたものの、自分の立場を知ってすっと身を引く悲しさよ。恐らくジェーンは、アメリカで秘書として働き続けてそのご褒美に命の洗濯に来たのでしょう。今までの彼女の人生はきっと自分で選び取ってきて、自立した女性として満足のいく生活だったことでしょう。それでも肩の力をふっと抜いた時に襲ってくる孤独感。そのジェーンの気持ちが痛いほど良くわかります。これは若い時に見ても真髄は感じられない映画かもしれないな、と思ったのでした。

そんなジェーンの前に現れたイタリア紳士のレナート。ハンサムで紳士の彼とデートすることになり、ジェーンは一気に舞い上がります。美容院でのセット、黒いシックなドレスでドレスアップ。女性はいくつになってもシンデレラになれるのです。レナートとの甘美な一日の夢も束の間、ジェーンは彼に妻がいることを知って打ちのめされます。それでも・・・。

「妻とは別居しているんだ」というのがレナートの弁です。これって結婚している男性の殺し文句のような気がします。レナートの真意は果たしてどうだったのか。それはわからないままですが、彼は彼なりの精一杯の愛を示したのだと信じたいところです。あのクチナシの花に象徴されるように。ジェーンは恋にのめり込んでいきます。いけないとは知りつつも。恐らくアメリカに居れば絶対にそんなことはしなかったであろう理性派のジェーンですが、異国での開放感と夢を求める気持ちには勝てません。

恋する乙女(乙女とは言えない年ではあっても)の心情を演じるキャサリン・ヘプバーンが絶品です。ある時は恋に瞳を輝かし、ある時には悲しみに目が曇り、何て素敵な女優さんなのでしょう。50年代らしいアドバルーンスカートのドレスも可愛くて、服の色に合わせて小さく頭に結んでいるリボンがまた年齢不詳で可愛い。これはキャサリンあっての映画と言えるでしょう。キャサリンだから、不倫物としてドロドロすることなくあっさりと夢の始まりの鐘を鳴らせる、そして・・・。

対するロッサノ・ブラッツィ。イタリアで女性を誘惑すると言ったらこの人しかいないでしょう、というまさに適役。キャサリンを伴ってあちらこちら巡るシーンは素敵です。それに何より粋。キャサリンの話をしっかり覚えていて、一輪のクチナシの花・・・。キャサリンがやってくるのを見ると二人の思い出の曲をすかさず生演奏させるセンス。確かに女性がまいって当然の気の利いた洒落た男性です。

全編を彩る「サマータイム・イン・ベニス」は有名な曲なので、ご存じの方も多いかと思いますが、一度聞いたら忘れられません。「旅情」と聞くとこの歌を思わず歌いだしてしまいます。

人生を知った中年の男女の、陶酔と現実の廻間の恋物語。見ていると切なくてたまらなくなってしまいます。特にあのラストシーン。思わず「走れ!走れ!」と声援したくなります。ああ、思い出すと目頭が熱くなる。粋で切ないこの映画、数あるラブストーリーの中でも傑作の誉れが高いのも当然のことです。もし若い時に見てそれほどではない、と思ったとしても、年を重ねたら是非もう一度見てみて下さい。きっと見方が変わると思います。


☆何故か裸足で観光客相手に抜け目ない商売を繰り広げるマウロ少年。何だかんだ言ってもラストシーンでは可愛かったですね。でも、カメラだけを助けてあげるのではなくてジェーンにも「危ない」って注意してあげてね。






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