おすすめ本









































































八人のいとこ
Eight Cousins

ルイザ・メイ・オルコット
Louisa May Alcott

偕成社 角川文庫など


私が持っているのは懐かしや角川文庫版なのですが、度重なる引っ越しでどこかの箱に紛れ込んでいて見つからないために、図書館で偕成社版をお借りしました。この偕成社の少女名作シリーズって、私も子供の頃何冊も持っていました。そうそう、たいていこの挿絵で、最初に主要登場人物の紹介が挿絵付きで載っていたものでした。懐かしさに感動してしまいました。


さてさて肝心のお話です。
両親を亡くして親戚たちが住んでいるキャンベルの丘に引き取られたローズは、父の弟のアレック叔父を後見人に、二人の大叔母、たくさんの叔母たち、そして7人のいとこたちとの生活を始めることになります。最初ローズは、屋敷で働いている少し年上でやはり身よりのない少女フェーブと仲良くなり、フェーブに並々ならぬ親近感を感じるようになります。また男の子に慣れていないローズは、最初は年齢もさまざまな7人のいとこたちに恐れをなしますが、やがてそんな緊張もほぐれ彼らと仲良くなって楽しい生活を始めることになります。これは13歳で新しい生活に飛び込んだローズが、失敗や献身を学びとり成長を遂げていく1年を描く心温まる物語です。


子供の頃から大好きなお話でした。何が好きかって、いとこが7人。それも男の子ばっかり!たった一人の女の子のローズはそれはそれは大事にされてプリンセス扱いで、うらやましい限りでした。一番年上で族長のアーチーは真面目でしっかり者。一つ下のチャーリーはプリンスと呼ばれるほどおしゃれでちょっとわがままなところもある。次のマックは本の虫といわれるほどの本好き。マックの弟のスティーブはチャーリーのミニ版ともいうべきおしゃれ少年。ウィルとジョーディは、健康優良児のような少年で、一番年下のジェミーは可愛い盛り。こんな個性豊かな従兄弟たちに囲まれたローズは全くうらやましい限りでした。

年下の従兄弟はまあ、私の場合特に関心はなかったのですが、好きだったのはアーチー。それからチャーリー。アーチーの族長の自覚を持ったしっかりさと真面目さにはやっぱり惹かれました。結局こういうタイプには弱いのよね。チャーリーは性格としてはアーチーとは正反対なのに、アーチーと大の仲良しで、しゃれ者で気が利いていてちょっと甘えん坊のところもあって誰かがついていてあげなければ、というような感じに惹かれました。マックは最初は何とも思わなかったけれど、本の虫というところは好きでしたね。病気で動けなくてわがままを言っているところは「秘密の花園」のコリンを思い出してしまいました。ウィルとジョーディは兄弟で年も近いし、どっちがどっちだかわかりませんでした。

全編を彩られているのは、見事なくらい道徳的な観念です。今時から見ればいささか気恥ずかしい位なのですが、これが古き良き昔のモラルであったのでしょうね。例えば、自分の家の使用人であるフェーブに並々ならぬ好意を寄せて、彼女をキャンプに行かせるためにローズは自分の楽しみを犠牲にします。クリスマスのご馳走を貧しい人の家に運んであげたマーチ姉妹みたいです。
また、ローズのささやかな見栄にもかなり厳しい目が光っています。ローズがおじさまに黙ってピアスの穴を開けたことで、従兄弟たちはやんやの騒ぎ。そこまで見栄っ張りと騒ぐか?と思うのですが、いかがでしょう。
またローズは寂しい生活をしてきた老女の大叔母様たちに、それぞれの得意分野を教えてもらうことで彼女たちに生き甲斐を取り戻させます。これなどは、今の福祉分野でもしっかり応用できそうなこと。

男の子たちの困った癖を直してあげるのもまた、ローズのお得意でした。アーチーとチャーリーのたばこを取り上げたり、一時ギャンブルに狂い始めたチャーリーを更生させたり。全くローズはプロ顔負けのカウンセラーです。

出てくる大人で印象的なのはやはりアレックおじさんとアーチーたちのお母さんであるジェシーおばさんでしょう。ジェシーおばさんは、とにかくとかく口うるさい他のおばさんたちと一線を画していて、女性の鏡みたいな人物です。この人と比べられたら他のおばさんたちが気の毒な気がします。

作者のルイザ・メイ・オルコットはご存じ「若草物語」で有名になった人です。信仰深く知的な両親に育てられましたが、家は火の車。でも彼女が少女時代から植え付けられた道徳観念は、彼女のほとんどの作品に生きています。
「八人のいとこ」の時代といえば、西に目を向ければ西部開拓の真っ最中。でも、そんなことはすっかり忘れてしまうような、あまりにほのぼのとして温かい暮らしが展開されます。これが東部と西部の違いだったんでしょうか。
若い女性の読み物として適当なものがほとんどなかったこの時代。オルコットの登場と彼女の書いた家庭小説という分野は、アメリカ文学史上でも画期的なことだったと昔習った記憶があります。

今は手に入りにくい本ですが、古き良き昔にタイムスリップしてちょっとまっさらな気持ちになって(だって今読むと、色々つっこみが入れたくなるくらい無垢な世界ですから)、是非ご一読下さい。かつて、「若草物語」や「アン」が好きだった人は、必読の書と思います。


☆ローズがアナベラに耳にピアスの穴を開けてもらうところ、消毒もしないで針でチクッてそれだけで良いの?と不安になってしまいました。ま、アレックおじさんがお医者様だから、そのあと消毒してもらったんでしょうが。






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