おすすめ本






























































リンゴ畑のマーティン・ピピン
MARTIN PIPPIN IN THE APPLE ORCHARD


エリナー・ファージョン
Eleanor Farjeon

岩波少年文庫


旅の歌い手マーティン・ピピンは偶然出会った若者ロビン・ルーの恋の嘆きを知ります。彼の恋人ジリアンは、恋をあきらめるまで父親の手によってリンゴ畑にある井戸屋形に閉じこめられていました。そこを番しているのは男嫌いの6人の娘たち。マーティン・ピピンはリンゴ畑に赴いて、6人の娘たちに「今までに語られたことのない恋物語」を聴かせます。「王様の納屋」の話、「若ジェラード」の話、「夢の水車場」の話・・・。話に魅了された娘たちは、一人また一人と心を開いて、マーティン・ピピンに井戸屋形の鍵を渡していきます。


舞台はピンクと白のリンゴ畑。白いリンゴの花が咲き乱れ、芳しい様々なリンゴが実をつける何ともきれいなところです。そこの井戸屋形に閉じこめられているジリアンは、引き離された恋人を思って口も訊かず食事もせず。番をしている6人の年頃の娘は乳搾りが本業なのですが、主人の命令でジリアンの監視をしています。なかなか魅力的な娘たちなのですが、揃いも揃って男嫌い。そこに現れたマーティン・ピピンがリュートを弾きながら幻想的な美しい恋物語を次から次へと披露して、娘たちの心の奥底に眠っているロマンティックな思いを刺激するのです。

このお話中でマーティン・ピピンが娘たちに語ることになるお話が魅力的です。
土地を取られ納屋に住んでいる王様が鍛冶屋で修行する話。出生不明の若者が領主の娘を恋するようになる話。粉屋の娘が昔会った男を思い続ける話。領主の5人兄弟が「はるかな向こう」に行ったことにより自分の秀でたところをなくしてしまう話。貧乏だが誇り高いロザリンドと彼女が出会った雄鹿の王の話。どれも美しい自然を舞台にした壮大なファンタジーであり、また愛の物語です。劇中でこれだけの他のお話が楽しめるのはとても得した気分になります。
王様や領主の話が多いのはやっぱりイギリスだからでしょうね。

井戸屋形の鍵を持って番をしている6人の娘たち。ジョスリン、ジェイン、ジェニファー、ジェシカ、ジョイス、ジョーンは名前が似通っているせいか、一読しただけではキャラクターがごちゃごちゃになってしまいがちです。ジョスリンやジョーンはまだ目立つのですが、あとは似てます(笑)。

マーティン・ピピンはいわば吟遊詩人と言ったところでしょうか。やはり一番傑出したキャラクターです。彼の口を通せば同じ言葉でも、クリームのかかったデザートに化けるようです。良いところで話の腰を折って、娘たちの関心を惹きつけるテクニックも相当のもの。ただし、これは彼に言わせれば大事なことを訊かずに、ささいなことを質問攻めにする女性特有の現象らしいですが。娘たちのあしらいも大したもので、一つまた一つと娘たちから鍵を手に入れて行く様は、どんなプレイボーイも顔負けです。

とにかく舞台が美しい上に、娘たちは人間であってもどこか妖精を感じさせるところもあって幻想的な世界です。ロマンティックファンタジーが好きな方は是非一度。


☆井戸屋形ってどういうものなのか、どうしても想像が出来ないんですが・・・。





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