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そして誰もいなくなった
Ten Little Niggers

アガサ・クリスティ
Agatha Christie

早川文庫


クリスティの作品に興味を持ち始めた頃、たまたま劇場で見たのがこの映画でした。早速原作も購読。かなりはまりました。

インディアン島を所有するオーエン氏から8人の人物に招待状が届きます。招待に応じて出かけた人々は、元判事、医者、女性秘書、老婦人、元陸軍軍人に、退役した老将軍、探偵、遊び好きの青年。年齢も経歴もバラバラで互いに見知らぬ者たちでした。彼らを迎えたのはオーエン氏の屋敷で働く夫婦者の使用人。肝心のオーエン氏は都合で到着が遅くなるとのこと。使用人夫婦でさえ実はオーエン氏に会ったことがないことがわかり、オーエン氏とは何者なのか、人々は疑惑を抱きます。そこへいきなり、集まった人々と使用人夫婦を含む10人をそれぞれ殺人罪で告発するレコードが流れます。それぞれに過去を持つ人々は、自分の弁明に必死になります。屋敷には古い童謡「10人のインディアン」の歌詞を書いた飾り物があり、10体のインディアン人形も置いてありました。そして殺人が起きるのです・・・。それは「10人のインディアン」の歌詞に添った内容で、人形も一つ消えていました。そしてさらにまた・・・。

場所が孤島ということでこれも密室サスペンスの一つ。舞台は豪華なお屋敷ですが、肝心の主人夫妻は存在せず、集められた人々が1人ずつ殺されていくというオーソドックスな形のサスペンスです。そしてその骨格になるのが「10人のインディアン」という童謡で、マザーグースを引用した作品の多いクリスティらしい作品と言えます。

「10人のインディアンの少年が食事に出かけた
 1人が喉をつまらせて9人になった

 9人のインディアンの少年が遅くまで起きていた
 1人が寝過ごして8人になった」

という形で始まるこの歌。最初の方はまだ良いのですが、そのうちに薪割りをしていて自分を割ったとか、蜂に刺されたとか、ニシンに飲まれたとか、大熊に抱きしめられたとか、どんどんグロテスクになって行くところが怖いです。おまけにそれぞれの殺人はこの歌をベースにしているのですから、どんなことになるかというと・・・。
孤島の連続殺人、勿論犯人が誰かというのが最大関心事で、集まっている人々のうちの誰かなのか、あるいは島に見知らぬ誰かが隠れているのか?皆が疑心暗鬼に陥り、それぞれを疑いの目で見つつも協力しないわけにもいかず・・・という不信感とジレンマが思いっきり現れているところも見所の一つです。

私が劇場で見たのは45年製作の巨匠ルネ・クレール監督による映画化でした。キャストもバリー・フィッツジェラルドやウォルター・ヒューストンなど渋くてなかなかでした。「サウンド・オブ・ミュージック」のマックスおじさんことリチャード・ヘイドンが出ているのを発見して喜んだことも。「レベッカ」のこわーいダンヴァース夫人ジュディス・アンダーソンも出ていました。

その後も手を替え品を替え、何度も映画化されました。65年の「姿なき殺人者」や、舞台を中東に移した74年の「そして誰もいなくなった」。今度は舞台をアフリカに移した「サファリ殺人事件」など。ストーリーはよくわかっているくせに、いちいちそれを全部見ている私もしつこい(笑)。
映画化ではラストが原作と違っているのが大きな相違点で(すべての映画がそうだったかどうかは記憶にないのですが)、私自身がルネ・クレールの映画から入ったためか、こちらのラストもそんなに嫌いではありませんね。実に映画らしいというか。

ポアロもミス・マープルも出てこないけれど、サスペンスの醍醐味をたっぷり味合わせてくれるクリスティ物の古典です。

それにしてもこのタイトル、原題は勿論、インディアンという言葉も今だったら使えないですよね・・・。原作を尊重するということで(書かれたのは30年代ですから)、そのままの表記を使わせて頂いたことをご了承下さい。


☆しかし、一通の招待状だけで、のこのこ孤島にバカンスに出かけていくこの人たちって・・・。





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