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村の学校
Village School

ミス・リード
Miss Read

日向房


南イングランドの丘陵地に広がる田舎町フェアエーカー村にはたった一つの学校があった。そこには女性校長のミス・リードともう1人の教師。生徒は全校で40人という小規模な世界。でも、小さな世界でも事件は数々起こるもの。新入生3人の初出校のドキドキや、老女教師の引退とその後任捜し。村総出の遠足や合唱祭など、季節感あふれる素朴な毎日の出来事を綴った温かく、ちょっぴり皮肉っぽく、笑える村の学校の一年・・・。

書かれたのが1955年ですから、恐らく舞台となっているのは50年代イングランドだと思います。しかし、この片田舎の学校はあまりに設備がお粗末!まず、水道がない!雨水を貯めて利用したり(エコロジーでしてるんではないんですよ)、飲み水はバケツに汲んで柄杓を添えてあったり、勿論お手洗いも・・・。仮にも先進国イギリスにおいても、田舎というのはこんなものなのだと驚かされました。この設備の貧弱さには、校長であるミス・リード自身も苦り切っているのですが、教育委員会は手を打ってくれない。どこの世界にもある話ですね。

さて、このミス・リード。作者と同じ名前ということで自伝かと思われるでしょうが、実はそういうわけではなくあくまでフィクションなんですね。だけど、主役と作者が同じ名前というのはややこしい。

村の人々は素朴で働き者で、温かく連帯意識が強く・・・と言いたいところですが、どうも必ずしもそうではない。素朴で働き者で連帯意識の強さはかなり村人に共通しているようですが、それでもパブで飲んだくれる者あり。人のうわさ話に花咲かせるのが生き甲斐の者あり。貧しさ故とはいえ、子供が盗んできた物と知りつつ素直に(?)貰ってしまう親あり。教育熱心な親もいる一方で、本など呼んでいる暇があるなら農作業でもしろ!と怒る親あり。ズバリ言ってしまえば、あまり教育に熱心な地域とは言えずそれ故にミス・リードは苦労が耐えません。何分余裕のある家庭の子女は私立学校に行ってしまう世界の果てに位置しているわけですから。

普段のイギリスファンタジーなどで読む世界の子供は、結構恵まれている家庭の子が多かったことに気づかされます。生活に余裕があるから、ファンタジーに飛び込む余裕もあるのよね、という妙な納得。全く逆に、恵まれない境遇からファンタジーに飛び込む子もいるけれど。その中間層にあるこの豊かではなく、さりとて何とか生活はしていけるので多くは望まない、妙にこじんまりしたこの世界にはファンタジーの入り込む余地がないところが面白かったです。

学校では望む生徒にはいくらかのお金を出すことによって給食が配給されるのですが、それがプディングのデザートまであって結構豪華。おまけに何杯もおかわりする子もいたりして(給食で栄養を穫っている子がいるあたりは日本の戦後を思い出します)、きっと美味しいのでしょうね。やっぱりどの本を読んでも、食べ物への興味は尽きませぬ。

特筆すべき登場人物はやはりミセス・プリングルです。学校の清掃を一手に引き受けている女性なんですが、彼女の毒舌ぶりにはたじたじ・・・。ストーブをせっせと磨いたりして、仕事熱心ではあるのですが、せっかく磨いたストーブを汚したくないために寒くなっても火を入れさせまいと頑張ること(笑)!つき合うのは相当な忍耐と寛容さが必要とされる人物の代表ですが、こういう人間が登場しないとまた物語面白くないんですよね。

このフェアエーカーとミス・リードと周囲の人を描いたシリーズは沢山出ています。色々な時代、色々な方向から読めてとても面白いです。興味を持ったら、いっそ全部チャレンジしてしまいましょう。


☆お給料日のやりとりがまた格別。わざとガンガン大きな音を出して存在をアピールしておきながら、ミス・リードがお給料を渡すと「すっかり忘れてました」って顔をする人や、何と言ってもミセス・プリングルのお給料に対する情熱!





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