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あした輝く


里中 満智子


終戦直前の満州で、現地人からも慕われていた夏樹病院の娘、今日子は日本軍の衛生兵速水香と出逢い、恋に落ちる。そして迎えた終戦。ソ連軍の侵入と、現地人たちの襲撃を逃れて、今日子たちは日本を目指して長い帰国の途につく。頼りだった父の死、香との結婚。恩師緑川先生の死などを経て、やっと今日子たちは日本に帰り着く。緑川先生の忘れ形見である生まれたばかりの明日香を引き取った今日子は、香の実家に逗留し、満州で生き別れた香の生還を待ち続けるのだった。

この頃、私にとっての少女マンガはごく一部の学園ものなどをのぞけば、外国を描いた世界がほぼ当然のものでした。外国への憧れ、外国人への憧れ(ルックスも?笑)など、未知の物への憧憬を満たしてくれる物が少女マンガでした。

そんな中で、この「あした輝く」は太平洋戦争と戦後を描いた衝撃的な作品でした。太平洋戦争は、私にとって小説の中で読む物であって、マンガに出てくる物ではなったのですね、その頃は。それも舞台は満州。満州での関東軍と現地人の立場も描いてあって、目から鱗的な作品であり、これを読んだ衝撃はかなり大きかったと記憶しています。

満州で生活していた今日子は、お嬢様育ちでそれこそ何不自由ない生活を送っていました。召使いにかしずれる毎日。でも、終戦は彼女の生活を一転させます。民衆を守るはずの関東軍は、一番に逃げていき、残されたのは無力で日本に帰る術を持たない人々ばかり。そんな境遇に陥った時、今日子は天性の強さを発揮します。それを支えたのは父の無償の愛、香の命を賭けた愛であったことは言うまでもありません。何も知らなかった今日子は、一歩日本に近づくごとに愛を知り、また人間の醜さも知っていきます。

実際の引き揚げは、人によって差もあるでしょうが、おそらくもっと壮絶を極めたことと思います。中国人残留孤児の問題が、今でも後を引いているように、そうでもしなければならなかった状況。生き延びるために鬼にならなければいけなかった状況は、当時の少女マンガで描けるようなものではなかったでしょう。

でも、作者が当時は若かったことや、少女マンガと言えば学園ロマンス全盛の時代に、このような歴史に切り込んだ勇気は称賛されることだと思います。

話は終戦後の日本に移り、友人ひろ子と、明日香と共に香の実家に住むことになる今日子はひたすら香を待ちわびる生活を送ります。この友人ひろ子という人、こんな人いる?と思うくらいイヤな人(笑)。時々里中マンガに出てくるとってもわがままでヒステリーで人前では良い子の仮面をかぶるイヤな女の代表格です。まあ、こういう人もいるでしょうが、相手の本性がわかっていながら今日子がひろ子と交流を続けるところが理解できませんね。秘密はすべて暴露してくれるおしゃべりマシーンのような人ですからねえ。

終戦後の生活もそんなにたやすい物ではなかったはず。食糧難の問題とか、そういったことがほとんど書かれていなくて、割と簡単にきちんとした仕事が得られたりするのもちょっと甘いかな、と思いますが、まあそれも物語の本質とは関係ないことです。

物語の本流は、戦争も病気も引き裂けなかった今日子と香の深い愛です。ここまで人を愛することが出来るのか、というぐらい二人は愛しあいます。見ていてもうお手上げ状態(笑)。でもこんな愛に出逢ったら、人間生まれてきた甲斐もあるかもしれません。

それから二人の娘達、亡き恩師の忘れ形見でありながら今日子たちに愛されて育つ明日香。でも、実子でないことを幼い時に知ってしまったために、自分を律することを覚え、成績も行いも立派で親の自慢の娘でいようと務め、どうしたら親に喜んでもらえるかを常に考えるようになってしまう、見ていて時々胸が詰まるような哀しさを秘めた女性です。でも、育ての母の強さをしっかり受け継いでもいます。

今日子と明日香、時代も生き方も違うけれど、女としてあふれる愛情を捧げた二人の女性の年代記です。涙なしでは読めません。

「精一杯生きてきたきのうまでの日々があるから、かがやくあしたを信じられる」。明日香のセリフです。


☆明日香のファーザーコンプレックス、ちょっとわかる。素敵なお父さんだものね。


中央公論社愛蔵版、文庫にて刊行





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