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エレファントマン・ライフ


坂田 靖子


ぱおー。ゾウがでてくるだけでうれしいボクにはとってもいいマンガであります。しかも坂田靖子! これが読まずにいられるでしょうか。

もしもマンションのとなりに像が引っ越してきたらどうします? そんなことは普通あり得ませんが、ジャッキー・デッカーのとなりの部屋にはほんとうにゾウが2頭引っ越してきてしまったのです。

ジャッキーは奥さんと幼稚園児の2人の娘といっしょにマンションに暮らしています。会社を辞めて現在失業中。主夫業をしながら職を探しているような、探していないような。でも彼はほんとうはカメラマンになって、アフリカで動物の写真が撮りたかったのです。

そんなある日、おとなりにだれかが引っ越してきます。引っ越しの手伝いをしてあげようと声をかけると、現れたのはなんと服を着たゾウ。それも2頭です。特殊メイクか何かだろうと思いながらもゾウのエルシーとダニエルと次第に親しくなっていくジャッキー。ゾウたちの部屋の中はまるでジャングル状態。巨大な植物やらイグアナやらワニを持ち込んで、とてもマンションの部屋の中とは思えません。

ところが、そのイグアナが配水管に詰まってしまい、ジャッキーとエルシーとダニエルはイグアナをなんとか引き抜こうとするのですが、イグアナが配水管からぬけた途端に部屋の中は洪水になってしまい・・・

まるで一夜の夢のように描かれるちょっとしたお話。坂田靖子の短編はどれもそうですが、日常から薄皮を剥がすようにして遊離していく独特の味わいがあります。これといった事件が起きるわけでもない、大した落ちがあるわけでもない、深い意味があるわけでもない、それでもなんとなく心に残る小品たちは、ひとときの心の安らぎをあたえてくれるような気がします。超大作映画や重厚な大長編小説に食傷気味のときに、つまみ食いのように拾い読みしてみるのがいいのではないでしょうか。高橋源一郎氏は坂田靖子のマンガの味わいを「上質なシナモンティー」にたとえていましたが、ボクには口なおしにちょうどぴったりの、気の利いたオードブルに思えます。

特にボクは坂田靖子のキャラクターのいかにも脱力しているような感じや、さまざまに表情を伝えながらもどこか飄々として、力の入らない目の描き方が好きです。作者本人が肩に力を入れないで描いているようで、ときおりホッとしたいときにはちょうどぴったりであります。だから、アフリカゾウとイグアナというヘンな取り合わせも、妙に許せてしまう。心が疲れたとき、ホッとしたいときのために、彼女のマンガを数冊、手近に置いておくことをおすすめします。


白泉社ジェッツ・コミックス、白泉社文庫で刊行

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