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はみだしっ子


三原順


「はみだしっ子」は子供の頃の私のバイブルでした(感涙)。初めて読んだ頃は登場人物達といくつも年齢差がなかったので、彼らがどうしてあんな難しい言葉を使えるのかが大変疑問だったものです。そしてマンガとしては破格の文字の多さ(1ページ丸々字ばっかりというのもあった)!見るマンガから、読んで考えるマンガへの分岐点となった、マンガ史上でも貴重な作品であると思います。

 昔々あるところにグレアム、アンジー、サーニン、マックスという4人組の子供がいました。彼らはまだ1桁の年齢のうちに親に愛想を尽かし家出して、偶然出会い一緒に生活するようになりました。真面目でしっかり者のリーダー役グレアムに、おしゃれで処世術に長けたアンジー、素朴な自然児サーニンに、甘えん坊で可愛いマックスと、見事に個性も分かれていました。グレアムは財政と生活管理、、アンジーは料理、サーニンは力仕事、マックスは・・・?とまあ、彼らなりに得意分野を分担してうまく生活しておりました。これは彼らが世の荒波にもまれ、別れた親たちに振り回され、心の底では愛してくれる者を求め続ける道のりを描いた作品であります。

 が、純粋な子供たちの涙涙の話と思ってもらっては困ります。彼らは、時にはうまく大人のところに転がり込んで、時にはバイトをして、人の顔色を伺うことに慣れ、身を守る術を覚え、生きていくためには何でもする、大人から見ればあまり関わりたくない類の子供たちなのです。それでも、大人は信じられないと心に唱えて傷つくのが嫌さに深入りを避けるのに傷ついてしまう、根っこの純粋さも持ち合わせています。そして彼らは互いの強烈な仲間意識に支えられています。それは単に友情と称するより、やはり仲間意識という言葉が合っているように思います。軍隊でいう一小隊のようなものですね。小隊長グレアムのもと、生きるも死ぬも一緒に近い感覚。

 ああ、何と言ったらいいのでしょうね。これを読んだ頃は私の心はこれから何でも吸収して行くぞ、というスタンバイOKの状態だったのでした。世の中の汚い面もほんの少しだけど見えてきて、彼らの厭世観が理解できるようになってきた頃でもありました。特に4人の中でも年上だったグレアムとアンジーに、自分を重ね合わせて見ておりました。

 「嘘も貫き通せば真実、ばれれば泥沼、泥仕合」とか「一日40本のたばこを吸う子供が10本に減らせば誉められる。最初からイメージを地に落としておけば後が楽」、「山の上に吹く風はもう誰のわめき声も届けない」などの言葉は、国語で習うどんなことわざよりも深く深く私の胸に浸透していたのでした。

 天国の三原順さん、あなたが発した言葉の教えはどんな授業よりどんな教科書より大きくて深いものだったんですよ。

 4半世紀の時を過ぎて、グレアムたちの世代からジャックたちの世代へと移行した私は、昔は今ひとつ理解出来なかったジャックやパムやロナルドや喫茶店のマスターたちの気持ちがよくわかるようになりました。

 でも時の歩みを止めた彼ら4人組は昔のままの姿で、本棚で私に微笑みかけるのです。昔彼らを愛したほどの情熱はさすがに今はもうないけれど、それでも彼らは私の宝物で本棚の特等席に収まり続けています。出会ったのがあの頃で良かった。多感な時代を共に生きたのが彼らで良かった。ついでに子供の頃から、大人社会の仕組みを教えてくれてありがとう。確かに一時期彼らは私の人生の教師でした。それほど大きな作品をこの世に送り出してくれた三原順さんにもありがとう。

 ピアノを弾きながらYou are my sunshineを歌うグレアムと、それを憂いと慈愛のこもった瞳で見つめるアンジーの表情を見て、感涙にむせんで、そのシーンを写して下敷きに入れて授業中も眺めていた私でした。

 一番好きなマンガはと問われたら、私は悩むことなく答えます。「はみだしっ子」です!


    白泉社花とゆめコミックス、白泉社文庫、愛蔵版で刊行



☆紹介文を書けとババちゃんは言うけれど、ずっと心の中の特等席で温め続けた作品(そりゃあ、忘れてた時期もあるけれど)のことを、簡単に○○字以内で書けるわけないじゃない。それっくらい、心の宝物なのよ。だから、本棚の中のはみだしっ子に汚い手で触らないでね!






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