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はるかなる風と光



美内すずえ


「別マ」って知ってますか?週刊マーガレットに骨の髄までどっぷり浸かっていた私が、次に向いたのがこの「別マ」でした。別冊マーガレット。要するにマーガレットの月刊誌だったんですが、何故か「別マ」と言ったのでした。ちなみに「デラマ」というのもあって、これはデラックスマーガレットのこと。これは季刊だったのかな。かくして「週マ」と「別マ」の2本立てで、私はさらにずぶずぶとマンガに浸かったのでした。

 さてさてこの別マの目玉作家の1人がこの美内すずえでした。とにかく、卓越したアイデアとストーリーテリングに度肝を抜かれた私は、すぐに彼女の大ファンになりました。美内すずえと言えば誰もが思い浮かべるのは「ガラスの仮面」でしょうが、私個人はこの「はるかなる風と光」の方が好きです。これと「帰らざる氷河」かな。私にとっての彼女のベストは。

 「はるかなる風と光」は1973年10月から74年10月まで「別マ」に連載されました。時は18世紀末から19世紀初頭、南太平洋のキング島にイギリス人の父と現地の族長の娘を母として生まれた少女エマの数奇な人生を描いた大河ドラマです。教育を受けるために8歳でヨーロッパに渡ったエマは、混血であることから様々な偏見と嫌がらせを受けます。それが逆にエマにキング島への愛をかきたたせることになります。

 やがて成長してフランスに渡ったエマはある偶然からナポレオンと出会います。エマの中にかつての野心に満ちた若き日の自分の姿を見いだしたナポレオンは、エマにいくつかの課題を与え、それをクリアーしたらキング島を近代国家とするべく援助を与える約束をします。様々な課題に取り組むエマは、その中で指導者としての資質を発揮し、やがてクイーンエマとしてキング島に君臨することになるのです。

 ナポレオンがエマに与える課題のひとつひとつ、エマが向き合うことになるキング島の様々な問題のひとつひとつがアイデアに満ちていて、これは当時の少女マンガのレベルを遙かに超える世界でした。戦争、自然の驚異なども迫力があってこれはスペクタル映画を見ているよう。このマンガは、思えば後年映画大好き人間になる私の基礎を作った作品であったのかもしれません。

 ロマンスの味付けも決して忘れていなくて、幼なじみで喧嘩友だちで、陰になり日向になりエマを見守るアドルフと、イギリス貴族で、いじめられるエマをいつもかばっていた優しいエドワードの存在があります。でも結局エマは女王としてキング島のために尽くすことに必死で、自分の恋をほぼ忘れようとしていたのですが・・・。

 ちなみに私は俄然長髪のアドルフのファンでした。エマに会うといつも皮肉を飛ばし、エマを怒らせてばかりいるアドルフですが、エマの影の王子様でいつもエマを守ることに専心している大海のような優しさを秘めている人です。

 キング島を近代化すべく送り込まれた人々が、元学者や技術者の囚人達というのも面白い発想で、彼らが逆に新しい自分たちの自由の地を作るんだという情熱に燃えるのも計算し尽くされたアイデアでしょう。

 奇抜なアイデアと圧倒的なスケールで読者を感服させたこのマンガ。もっと時代が後ならば、ハリウッドで映画化されていても不思議はないのに。

 時は永遠へと続く。その大きな流れの中で人の命は・・・一生は・・・一瞬に吹きすぎる風のようなもの。だが時に光をとどめることもある。風のように生きるか、光のように生きるか。……ナポレオンがエマに贈った言葉です。

☆寄宿舎、修道院、いじめ、あぶなげなシスター、「13月の悲劇」「帰らざる氷河」「燃える虹」・・・他にもありました。これらの作品で描かれたエッセンスが全部詰まっている作品です。

     集英社マーガレットコミックス(絶版でしょう)
     白泉社文庫(美内すずえ傑作集12,13)にて刊行






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