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トーマの心臓



萩尾 望都


ドイツの寄宿学校(ギムナジウム)シュロッターベッツの生徒トーマ・ヴェルナーが亡くなった。陸橋から落ちた事故死だと思われていたが、同じ学校の上級生ユリスモールの元にトーマの最期の言葉を記した手紙が届く。それを知っているのはユーリとルームメイトのオスカーだけ。そしてそんなとき、トーマにそっくりのエーリクが転校してくる・・・。
 ギムナジウムという言葉を知った最初でした。そして寄宿学校物に興味を抱き始めた最初でもあったかもしれません。
 友情がこの世で最も大事な物の一つだと信じていたあの頃。友達と群れて騒ぐのが楽しかったあの頃。それでいて心の中に人に言えないそこはかとない寂しさや無常感を抱えていたあの頃。「トーマの心臓」はちょっとナイーブだった私の心にビンビン響いたものでした。
 ユーリの透明感のある潔癖さと厳格なまでの崇高さ、オスカーの世渡り上手の影に隠れたやるせない寂しさ。「はみだしっ子」びいきだった私には、ユーリはグレアム、オスカーはアンジーを連想させるキャラクターでとても親近感を抱いたものです。
 例によって天の邪鬼な私のお気に入りはオスカーでした。オスカーファンは多かったと思うから、私にしてはメジャーな嗜好というべきでしょうか。一つ上という年の差だけではない、大人の視点と機知と包容力を持ち合わせ、それでいてものすごく純粋な少年の心を哀しいくらい残している彼の姿に惹かれたものです。校長先生の枕元に付き添っているオスカーを抱きしめてあげたかったですね(笑)。
 結局ユーリは孤高の人だし、エーリクは放っておいてもかまわれるタイプ。でも一見一番しっかりもののオスカーこそが、本当は寂しがりやで人の手を求めているんですよね。やっとユーリがそれに気づいたとき、ユーリの中の大きな氷の固まりが溶けて彼は新しい一歩を踏み出したのでした。
 それからバッカス。もじゃもじゃの髪に、派手なベストを着て、デンと構えている上級生で、オスカーの相談役。ちっともハンサムではないけれど、包容力ナンバー1の実に味のあるキャラクターでした。まだまだ少女マンガは美しい物のみを追求していたこの時代に、こんないぶし銀の脇役を輩出し得たなんて素敵。
 これを読んだ頃の感動が今は自分の言葉で語れなくなっているのが残念です。彼らの友だちになってあげられるような時は遙か昔に過ぎ去ってしまった私には、ユーリもエーリクもそして何よりオスカーは、肩でも抱いて「愛されているのよ」って言ってあげたいような愛おしい存在になりました。バッカスとはお酒でも酌み交わして語り明かしたいけれど(笑)。

☆寄宿舎、上級生、お茶会、永遠のテーマね。

         小学館コミックス、文庫、愛蔵版で刊行







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