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われらはみだしっ子


三原 順


「はみだしっ子」については既に言及していますが、とにかく私にとって最愛のマンガですゆえ、エピソード一つ一つを取り上げてみたいとずっと思っていました。マンガネタも少なくなってきたことですし(笑)、他のマンガも取り混ぜながら、このシリーズのエピソードをも追究していくことをお許し下さいませ。


記念すべき「はみだしっ子」シリーズの第一作です。
グレアム、アンジー、サーニン、マックスの4人はそれぞれ理由あって親の元から逃げ出してきました。今はある街で喫茶店を営むマスターとその妹のローリーのところに世話になっています。4人はとても仲が良く、ローリーも美人で優しくてキュートで、楽しい毎日でしたが、ある日ローリーが4人のことを警察に家出人として届け出ていたことがわかります。そして遂にマックスを捜している父親がいることが判明し、警察が訪れます。その場はうまく逃れたものの、ショックを受けた4人は、4人まとめて愛してくれる「恋人」を捜そうと冬の街をさまよいます。でもなかなか恋人は現れず、降りしきる雪の中4人の意識は遠のいていきます。


最初はシリーズ物になるとは思わずに描いたというこの話。雑誌掲載時とは、ラストを差し替えてコミックス収録したということです。

4人の簡単なキャラクター紹介がなされていますが、一番年長のグレアムでもせいぜいもうすぐ8歳という歳なのに、彼をはじめ4人とも一筋縄ではいかないところが既に現れています。でも、家出した幼い子どもたち。それなのに可哀想という話ではなくて、すでに世を見据えてはみだしっ子として開き直っているところが、私にはとてもとても新鮮でした。

4人がマスターとローリーのところを出ていく場面。ローリーがやってきて、キスして抱きしめ「どこにも行かせない!」と言う
のをひたすら待って、ゆっくり荷物を詰め、ゆっくり階段を降り、ドアを開けながらも振り返り、歩きだしても後ろを振り返ってしまう描写の全ては彼らの切ない気持ちを余すところなく描ききっていて圧巻です。
「ローリーにはわかってないんだ。ボクたちが欲しいのは親という名を持った人間じゃなく・・・ホントに愛してくれる人が欲しいんだってことを・・・」
グレアムのこの言葉がグッと胸を抉ります。

ローリーに来て欲しかった。彼らと一緒にローリーが来てくれるのを待ったものでした。まだ間に合うのに、と。
でも・・・年を重ねて思ってみればマスターとローリーの気持ちも良くわかります。見ず知らずの子供を、それも4人も1年以上も世話し続けた2人は立派ですよね。親が捜しているのではないかと警察に届けるのも当たり前。ローリーはローリーで、彼女に出来る精一杯の範囲で彼らを愛していたんだと思います。でも、若くて独身のローリーにそれ以上何が出来たでしょう。彼女にはまだこれから彼女の人生が待っています。4人の親代わりとして、4人を愛する人として、彼らをずっと見続けることを求めるのはあまりに酷ですよね。それは多分まだ独身であろうマスターも一緒。最初に出会ったのが彼らのような人であったことは、幸運だったとさえ言えるでしょう。

家を出た4人は愛してくれる人に「恋人」という名を付けて待ちます。捨てられていた子猫にさえ「恋人」が現れるのだから、ボクたちにだって・・・。そしてもし、「恋人」が現れなかったら、七面鳥のおじいさんが実は神様を待っていたように神様が来てくれる。寒くても飢えても、親のところにもローリーのところにも戻りはしない。
「じゃま者扱いする連中のもとにとどまり、失われた愛をもとめてへつらうよりも飛び出してあらたに出発する方がいい!たとえ・・・行き着く先が死でも・・・」
この年にして彼らをそこまで思わせた彼らのバックボーンはその後語られていくことになります。

そして遂に彼らの前に現れた恋人が誰だったのかということは、ずっとあとになってわかってきます。彼らの出発点であり、その後の人生を変える出会いであったのだということだけ言っておきます。

初めてこの話を読んだその時から、私はずぶずぶと「はみだしっ子」にはまりました。最初一番好きだったのはグレアムでした。やっぱりあのリーダーシップ。冷静な判断力。仲間思いの優しさ。でも今は、そもそもグレアムがドロドロした泥沼的思考の持ち主だったから他の3人も巻き込まれていったのでは!?・・・とも思います(笑)。とはいってもグレアムがあんなに面倒見の良いリーダーだったからこそ、4人離れずにいられたというのも事実なんですよね。

涙なしでは読めないけれど、全然ハッピーエンドじゃなくて、それでも憎らしいくらい開き直った4人の姿に共感出来る人ならばこの後もずるずると底なし沼状態にはまることをお約束します。


☆マスターのところにいた頃から、グレアムはおじさんからお金を受け取っていたのだろうか。あのおじさんともあろう人が、見知らぬ人の家に1年以上も世話になっている状態を見過ごしていたのだろうか??


花とゆめコミックス、愛蔵版、白泉社文庫にて刊行