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東の地平 西の永遠〜続・11人いる!


萩尾 望都


宇宙大学で勉学にいそしむタダたちのもとに、故国に帰った王様(マヤ王バセスカ)から招待状が届く。「アリストカ・レは食の月。歓待す」。アリストカ・レに着いたタダとフロルは王様と再会し、歓待されるが、この地では密かに陰謀が巡らされていた。バセスカを王座から引き下ろし、その兄を王として隣り合うアリストカ・ラに宣戦布告が為されたのだった。反逆者として捕らえられた王様とタダたちは、脱出して宇宙大学へと向かう。宇宙大学は中立の地として、王様の身柄をどこにも引き渡さないことを保証し、つかの間の平和が訪れる。しかし、アリストカ・ラからの極秘指令を受けたかつての盟友ソルダム4世(フォース)が再び大学に戻り、敵同士として王様と向かいあうことになる。


マヤ王バセスカのアリストカ・レとは「東の地」の意味。フォースのアリストカ・ラは「西の地」の意味。この星は母なる星アリトスを間において巡る兄弟星で、もともとは同種族でした。しかし、経済的に恵まれない両星は母星アリトスの鉱山を巡って戦争を始めようとします。あくまで戦争反対の立場をとるバセスカ王。しかし、急進派にとってはバセスカは理想像を掲げる反逆者でしかありませんでした。

「11人いる!」はサスペンス色たっぷりでハラハラドキドキしましたが、この続編はズバリ泣けます。テーマが戦争だから。そして、その戦争が共に最終試験をくぐり抜けた王様とフォース、それぞれの星同士の戦いであるからなおさらです。

宇宙大学はあくまで中立の立場をとるので、そこに逃げ込んだ王様はつかの間の安らぎを得ます。ガンガたち旧友との再会。きな臭い自分の星と安定した大学との差を身を以て感じる王様のもとに、今や敵同士となったフォースがやってくるのです。それもフォースは家族を人質に取られて王様暗殺の指令を受けて。
友人同士が国のため(星のため?)とはいえ、殺し合わなければならないとは何たることでしょう。それも王様もフォースも望んでいるのは戦争ではなく、平和共存。しかし、戦争を回避させるためにフォースが受けた指令は王様の暗殺なのです。そして・・・。
「わたしは死ぬのはいやだった。だけどこんなのはいやだ。もっといやだ!」という叫びが、ずっと脳裏にこだまし続けるあのシーンはあまりに痛切でやりきれません。こんなにこだわるのは私が王様とフォース両方のファンだからかしら。

王様の星に遊びに行ったはずなのに、すっかり陰謀に巻き込まれて逃亡生活を送る羽目になるタダとフロルは相変わらず元気です(特にフロル)。フロルの、口は悪いけれど真意を突いた言葉は一つ一つ重みがあるし、タダ思いで落第しても失敗しても、それでもあくまでタダについていくところはやっぱり可愛いですね。

遙かな宇宙も、この地球も、同じ民族隣り合った地で戦争をし合うところは全く同じ。いつになったら、本当の平和や安らぎがやって来るのでしょう。宇宙大学がもっともっと進化して、その卒業生たちがそれぞれの星の中枢を担う日がやってきたその時には、かつての学友同士が衝突することを望まない平和な宇宙社会が築かれることを期待します。


☆「いようお客人!」なんて言って朝から酒ビン持ってご機嫌のバセスカ王の兄トマノ。陰謀のダシにされようとしているのに、こんな能天気で良いのか?いや、こんな脳天気だからダシにされたんでしょうな。


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