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アパートの鍵貸します



THE APARTMENT


1960年アメリカ映画 UA
白黒  125分


監督 ビリー・ワイルダー
出演 ジャック・レモン シャーリー・マクレーン
フレッド・マクマレー
レイ・ウォルストン エディ・アダムス


大手の保険会社に勤めるC.C.バクスターは、今はただの平社員だがいつか出世することを夢見る男。そのためには上司に受けがいいことが一番。ということで彼は、上司に自分のアパートの鍵を貸している。上司の一時のアバンチュールのために部屋を貸すのだ。ある日、部長のシェルドレイクからお呼びがかかった。出世の話かと思いきや、何と部長もアパートの鍵を貸せと言う。一も二もなく鍵を渡すバクスターだったが、何と部長の相手が自分が密かに心を寄せる可愛いエレベーターガールのフランだと知り・・・。


ビリー・ワイルダー監督が亡くなりました。大往生でした。数々の喜劇、そして皮肉たっぷりの人間ドラマを撮って来た人ですが、この映画はワイルダーの代表作の一つであることは間違いないでしょう。

そびえ立つ高いビルに呑み込まれていく沢山の社員。広い広いオフィスに、定時の出社、定時の退社。絵に描いたようなサラリーマン生活の描写からこの映画は始まります。バクスターは、このだだっ広いオフィスから抜け出すことが夢です。つまり出世することです。そのために、上司のアバンチュールに手を貸すようになり自分のアパートの鍵を貸し出します。相手は彼の都合など構わず、要求を通してくる強者たちばかりです。そして何と言っても上司。自分のこれからの会社での地位がかかっているだけに、無理な要求をもバクスターは断ることが出来ません。だから、雨が降っていようが、夜遅くであろうが、彼は自分の城を明け渡して、1人公園で座っている羽目になるのです。それもこれも出世のため・・・。何とも哀しくも厳しいサラリーマン物語です。そして、遂に大物部長までがバクスターのアパートの鍵を所望することになります。彼に取り入れば出世は間違いなし。ところが、部長の相手は自分が密かに心を寄せていたフランだったのです。この切なさ、やるせなさ・・・。

しかし、フランはあくまでも部長の一時のアバンチュールの相手でしかなく、それを思い知ったフランはバクスターの部屋で自殺未遂を起こしてしまうのです。部屋に帰って、それを見たバクスターは必死にフランを救おうとします。

ジャック・レモンは、男の純情を演じさせると天下一品のうまさです。一度はデートの約束を取り付けたものの、部長との逢う瀬のために自分を振ったフランなのに、せっせと世話をするバクスター。本当にフランが好きなんですね。例えフランの心が自分の方を向いてくれなくても、助けずにはいられない男心。グッときます。その一方では、出世のために自分のアパートを明け渡す情けない稼業に手を染めてしまって抜けられない。上司に嫌とは言えないサラリーマンの哀愁をこれほど切なく描いた作品も希有でしょう。

シャーリー・マクレーンはまだ若くて可愛かったですね。男たちの思惑や世間の風に流されていってしまう世間知らずのところがあって、でもある日ハッと真実に気がつく・・・。これはまた、都会に出てきて世の中を知った若い娘のほのかな成長物語でもあるかもしれません。

フレッド・マクマレーはテレビドラマ「パパ大好き」の格好良いパパですが、映画では良い人に見えたのに実はいやーな人という役柄が結構多くて、この映画でもその例に漏れません。子供とクリスマスを祝っているところなんて、本当に「パパ大好き」そのものなんですが。

部長の秘書や、バクスターを良いように利用する上司4人組、そしてお隣のお医者さんなど脇役も一癖も二癖もある演技達者です。脇にも手を抜かないワイルダーの職人芸が光っています。

茹でたスパゲッティを掬うためにキッチンに置いてあるラケット。社内でメールボーイが運び役を務める鍵など、小道具も光っていて、特に鍵はもう一つの全然違う鍵の存在が最後にキラリと光ります。うまいですね。

一級のコメディとはこういう映画を言うのだとしみじみ感じさせてくれます。笑わせてくれるだけではない。ペーソスがあって、最後に感動もあって・・・。ビリー・ワイルダーとジャック・レモンはまさしくその点、真のコメディセンスの持ち主でした。合掌。


☆あのラケット、スパゲッティ専用で、外でボール打ったり地面にガランと転がしたことはないんでしょうね?






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