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カイロの紫のバラ



THE PURPLE ROSE OF CAIRO

1985年アメリカ映画
カラー 82分
 
監督 ウディ・アレン
出演 ミア・ファロー ジェフ・ダニエルズ
       ダニー・アイエロ ダイアン・ウィースト
        エドワード・ハーマン ヴァン・ジョンソン
 ミロ・オーシャ


不況下の30年代、失業中で飲んだくれの暴力夫を抱えるウェイトレスのセシリアは、映画館に通っては夢の世界に浸るのが毎日の楽しみだった。ある日見に行った「カイロの紫のバラ」という映画が気に入った彼女は、何度も同じ映画を見に通い詰める。5回目の上映を見ている時、映画の登場人物で探検家役のトム・バクスターが突然画面の中からセシリアに語りかけてくる。そして遂にスクリーンから飛び出して、セシリアの手を取り町に繰り出す。スクリーンの中だけで生きるトムは、現実の生活には全く疎かったが誠実で何よりセシリアを愛していた。トムに「きれいだ」と言われ、愛を告白され、二人の時間が楽しくて仕方がないセシリア。しかし、トムがスクリーンを飛び出したことで映画会社は大騒ぎになり、トム役を演じたギル・ジェラードがトムを探すために町にやってくる。そこでセシリアと知り合ったギルは、やはりセシリアに惹かれる。架空の人物トムと現実のハリウッド俳優ギルの二人の男性から求愛されたセシリアは・・・。


映画を愛する全ての人に一度は見て頂きたいおとぎ話です。世の中は不況真っ只中の1930年代。失業者が町にあふれ、そんな夫の一人を抱えるセシリアの毎日は苦悩続き。姉妹のつてで同じ店でウェイトレスをしているもの、やることなすこと失敗ばかり。夫は彼女の少ない稼ぎをせびり、果ては暴力を振るう始末。しかしセシリアにはそんな辛い現実から逃げる術はありません。唯一の現実逃避が映画館なのでした。この暗闇の中では、セシリアは未知の世界を知ることができ、未知の場所に行くことができ、上流社会の洒落た生活を知ることもできるのです。美男美女が繰り広げるこんな夢の世界にセシリアがはまるのも無理はありません。かくして彼女は毎日のように映画館に通います。新作の「カイロの紫のバラ」にはまった彼女は、5回も同じ映画を見続け、その結果奇跡が起きるのです。

スクリーンから夢の王子様が飛び出して来たら・・・という乙女チックな夢を本当に叶えてしまった映画です。トム・バクスターは現実の世界の人物ではないので、何かととんちんかんな人物ですが正義感が強く誠実です。そしてハンサム。そんな彼にセシリアが惹かれるのは当然でしょう。ところが、そこにトムを演じている俳優のギルが現れ、トムをスクリーンの中に連れ戻そうとするからややこしくなってきます。純真に映画が好きで、俳優としてのギルを評価してくれるセシリアにいつしかギルも惹かれていってしまうから、さらにややこしいことに・・・。

スクリーンから登場人物が飛び出して来て、女性をさらって逃げるという設定もロマンティックですが、彼が逃げたことで肝心の映画は進まなくなり、映画の他の登場人物が文句をタラタラ繰り広げトムが帰ってくるまで時間つぶしをしたり、その場の登場人物ではない人も出てきてしまったり、と残されたスクリーン上の人物が繰り広げるあれこれがまた笑えます。おまけに彼らは、劇場内の現実の人間たちと会話を繰り広げ、トムはまだ帰ってこないのか、とか、お客さん相手に「私は伯爵夫人よ」とか言いたい放題。そんなスクリーンに閉じこめられた人物たちを演じるのが、懐かしやヴァン・ジョンソン。そしてエドワード・ハーマンなども扮しています。

夢見ることを知っているセシリアは、トムとの出会いもそれほどの驚きがないどころか寧ろ嬉しそうに受け止めます。僕と一緒に生きて欲しいと願うトムの願いをセシリアは受け入れることが出来るのでしょうか。
映画は、どんな時でも夢を見させてくれる存在です。自分が体験しようもないこと、行くことの出来ない場所、時代。劇場を一歩入ればそこは夢の世界。現実の厳しさに時には打ちのめされるセシリアが一歩劇場に入れば、すっかり夢見る少女になるその様子がとても微笑ましいです。アステア&ロジャースが歌い踊る「トップハット」を見つめる彼女の表情が見る見る変わっていく様子は要チェック。切ないんだけれど、やっぱり夢を感じさせてくれるのです。


☆今は、くたびれた中年のおじさん役が多いジェフ・ダニエルズですが、この頃は2枚目俳優で売っていました。トム・バクスターの純真さがとても良かったです。一時期ウディ・アレン映画の常連だったミア・ファローは、さすがの巧さ。30年代の寂れた町の情景もとても良く出ているのでした。






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