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恋はデジャ・ブ



GROUNDHOG DAY


1993年 アメリカ映画 カラー 101分

監督 ハロルド・ライミス

出演 ビル・マーレイ アンディ・マクダウェル
クリス・エリオット スティーヴン・トボロウスキー


SFコメディであります。軽い作品で、さしたる名作でもないのですが、ビル・マーレイが好きだし、この映画のアイデアがけっこう好きなので、紹介しちゃいます。

フィルはテレビのキャスター。お祭りの取材である街に来るのですが、どうも様子が変。ある日、朝起きてホテルを出、道を歩いていると、昨日と同じ人物に同じ場所で出会い、まったく同じことを言うのです。不思議に思いながらお祭りの会場へ行くと、昨日と同じことをしている。

そんなことが、次の日も続きます。フィルは大変なことに巻き込まれていたのです。なんと、ある一日を何度も何度も繰り返し体験しているのです。つまり、何度目覚めても、朝になると最初の日に戻っていて、まったく同じ日を永遠に繰り返さなければならないのです。

それに気づいているのはフィルだけ。ほかの人々はみな新しい一日を体験していると思っている。フィルは何とかそれから逃れようとします。わざと交通事故を起こしたり、建物から飛び降りてみたり。でも、たとえ死んでも、朝になると生き返って、ホテルのベッドに寝ている。そしてまた、同じ一日の繰り返し。留置場に入れられても、朝になればホテルで目覚める。

もちろん、誰も信じてくれません。たとえ周囲の人がフィルをおかしな人間だと思っても、朝になれば誰も覚えていない。考えようによってはやりたい放題なのですが、何とか逃れたいフィルにはそれどころではありません。

実はフィルは恋をしていたのです。その女性に愛を告白するためにも、どうしてもこの繰り返し地獄から逃れなければならないのです。だって、愛を告白して、彼女の愛を勝ち得ても、朝になればまたもとに戻っている。全部、最初からやり直しです。それ以上先に進むことができないのです。毎日プロポーズしつづけるなんて、耐えられるでしょうか。結婚して、家庭も築きたいでしょう。

一つだけ救いなのは、知識や記憶だけは朝になってもなくならないこと。シェイプアップとかフィットネスに精を出しても元の木阿弥ですが、恋する相手のことについては同じ一日を繰り返すことによって、よりよく知ることができるようになります。それに、精神的な面や教養については、自分を磨くことができる。はたしてフィルはこの繰り返し地獄から逃れて、彼女と結ばれることができるのでしょうか。

実はこの、何度も同じ一日にタイムスリップしてしまうというアイデア、この映画のオリジナルではありません。ソムトウ・スチャリクトルという、アジア系のSF作家の傑作短編に同じアイデアのものがあるのです。その短編では、宇宙人が地球人をよりよく観察するために、地球人に同じ一日を何万回にもわたって繰り返し体験させるのです。ずいぶん以前に読んだのでよく覚えていないのですが、確か主人公は朝の満員電車にぎゅうぎゅう詰めになって、しかも列車事故で死ぬのですが、それを何万回も体験させられるのです。たまったものではないですよね。それでも、何とか意思の力でほんの少しずつ変更を加えていくことができるようになっていくという話だったと思います。

とてもつらい状況にあったころ、一日だけ小休止のような日がありました。その日が永遠に終わらないことをどんなに願ったことか。あるいは、その日が永遠に繰り返されることを。でも、そうはうまくいきません。明日になれば、違う一日がはじまります。また、逆に言えば、朝になればまた新しい一日なのですが、どの日も昨日と代わり映えのしない、同じような一日の繰り返しだとも言えます。そんなことを考えると、この映画はただのライト・コメディではなくて、ものすごい皮肉が込められているようにも思えてきます。

どうあっても、人間は昨日に戻ることはできません。それがすばらしい一日であったとしても、あるいは思い出したくもないつらい一日だったとしても、時間はどんどん過ぎていき、もとに戻ることはできません。あとに残るのは記憶だけ。今この瞬間と思っている時間のある一点も、まさに一瞬後は過去。記憶の中にしか存在しません。時間は僕たちの意思にかかわらずどんどん勝手に進んでいくけど、少なくとも自分そのものは自分の意志で前進できるはずですね。できれば、時間の進行に負けないように前進したいものです。そして、あの日に戻りたいなんて、感傷を伴った後悔を抱かない人生を歩みたいものです。生きているかぎり、前進するしかないんですから。





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