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黄昏



ON GOLDEN POND

1981年アメリカ映画
カラー 110分

監督 マーク・ライデル
出演 キャサリン・ヘプバーン ヘンリー・フォンダ
ジェーン・フォンダ ダグ・マッキーオン
ダブニー・コールマン


ノーマンとエセル夫妻はバカンスを過ごしにゴールデンポンドの別荘にやってきた。ノーマンは忍び寄る老いへの恐怖を隠しきれない年齢で、相当の頑固者。妻のエセルはそんなノーマンをうまくあしらいながら家に笑いを絶やさない明るいしっかり者。ノーマンの80歳の誕生日に娘のチェルシーがボーイフレンドを連れて遊びに来ることになった。ノーマンとチェルシーは、なかなかうまく意思の疎通が出来ずぎくしゃくした関係を続けていた。到着したチェルシーは、ボーイフレンドの歯科医ビリー・レイとその13歳になる息子ビリー・ジュニアと一緒だった。チェルシーはビリーとヨーロッパに行くためにビリー・ジュニアを一ヶ月預かって欲しいと言う。生意気盛りの少年ビリーにとって想像出来ないくらい年を取っているノーマンとのジェネレーションギャップは強烈だったが、いつしか二人は心を通わせていく・・・。


その名の通り、金色に輝くゴールデンポンドの美しい水面。その上をスイスイ泳ぐつがいのアビ。アビの鳴き声がとても印象的な映像的にも美しい映画です。またデイブ・グルーシンの静かな、心にしんみりくる音楽も素敵。老齢に入った夫婦を中心に夫婦の愛、親子の愛を描いた感動的な映画です。

ノーマンは80歳。口は若い頃と変わらず(いやそれ以上?)達者で皮肉の塊ですが、身体の衰えと物忘れは隠せません。かつて大学教授であったノーマンにとって自分に起きつつある変化を認めるのは耐え難いこと。それでも容赦なく老いはやってきます。その葛藤はますますノーマンを頑固にしていきます。端から見るととにかく付き合いたくないタイプの鼻持ちならない頑固じいさん。彼をうまく扱えるのは長年連れ添った妻エセルだけで、ノーマンもエセルには何だかんだ言っても甘えてその掌の上で満足して踊っているようです。しかし、娘のチェルシーとは長年不仲が続きます。チェルシーを愛しているのに心を開けないノーマンの頑固さと、そんな父に認めてもらいたいと願いつつも思い通りに人生を運べないチェルシーの葛藤。そこに飛び込んで来たチェルシーのボーイフレンドの息子のビリー・ジュニアと釣りに出ることによって、ノーマンの心は少しずつ柔らかくなっていきます。湖の事故でノーマンが一緒に居るのはビリー・ジュニアなのに、呼びかけるのはそこにいない「チェルシー、チェルシー」。心を打つシーンです。

そして、作品の根幹を為すノーマンとエセルの夫婦愛。エセルは決してノーマンを甘やかすタイプの妻ではないし、ノーマンも素直にエセルを喜ばせるタイプではない。お互いのそんな性質はとっくにわかりながら、それでも長年添い遂げている二人には他の人には絶対に入り込めない二人だけで築いた世界があります。ノーマンのためなら真っ暗な中での水泳もいとわないエセル。いつも死を見つめているノーマンには時にはうんざりすることもあるでしょうが、それでもエセルにとってノーマンはなくてはならない人。自分も老境に入ったエセルのノーマンに対する溢れる愛情が愛おしいほどです。


この映画は、娘ジェーン・フォンダが父ヘンリーのために企画した映画です。そして初共演をそれも親子役で果たします。ヘンリーとジェーンは、彼女の母親が自殺したことが原因となって長年の不仲が囁かれてきました。大スターのヘンリー・フォンダの娘として見られることを嫌ったジェーンは、60年代に女優デビューしてからもサラブレッドの道を外れ、ロジェ・バディムとの結婚、離婚、ベトナム反戦女優へと常に世間に話題を提供してきました。ヘンリーの娘ではなく「ジェーン・フォンダ」として。一方のヘンリー・フォンダはハリウッドでも1、2を争う名優で演技には定評がありましたが、ハリウッドシステムを嫌うその生き方が影響したのか何故かアカデミー賞には縁がない人生でした。しかし俳優人生晩年のこの映画で遂にアカデミー主演賞獲得。娘ジェーンが長年の確執を乗り越えて父に贈ったオスカーでした。授賞式には既に病床にあったヘンリーの代わりにジェーンがオスカーを受け取って、「パパ、今から飛んでいくわね」と感動のスピーチをしたジェーン。そして、ヘンリーはこの娘からのプレゼントを胸にその約半年後永遠の旅に出ました。このフォンダ親子の人生模様が、映画の中のノーマンとチェルシーの姿に重なって、見ていても心が痛くなるくらい。ノーマンとチェルシーが抱き合う姿は、フォンダ親子の長年の確執に終止符を打った姿としていつ見ても泣かずにはいられないのです。この素晴らしい作品はヘンリーの遺作となりました。

妻役のキャサリンもこの映画でアカデミー主演女優賞を受賞。実に4度目の栄冠です。今のところ誰にも破られることのない大記録。いつも明るさを忘れずに、しかしながら父と娘の間に立って心を砕く様子が忘れられません。ノーマンに比べればまだまだ元気な妻という設定ですが、ところどころの微妙な震えなど、いつもスクリーンで元気いっぱいだったキャサリンにも確実に訪れている老いは隠せません。それでもやはり彼女は輝いています。さすがのジェーンもキャサリンの前では小娘に見えました。80年代にして何とも贅沢な共演。名女優と名男優の見事なアンサンブル。古き佳きハリウッドを代表する最後の大共演だったかもしれません。

ビリー・ジュニア役のダグ・マッキーオンは当時活躍していた子役。ちょっと生意気で、80歳=凄い年寄りと思っていた彼が段々ノーマンに友情を抱いていく様子を好演しています。「気球の8人」や「遙かなる西部/わが町センテニアル」での芸達者ぶりは見事でした。ビリー・シニア役はダブニー・コールマンで、「9時から5時まで」でもジェーン・フォンダと共演していましたね。

「神さま、御願い連れて行かないで。こんな馬鹿お気に召しません」。私はこのシーンが忘れられません。初めて見た時、私はまだ若くて、ノーマンとエセルの老いへの恐怖よりフォンダ親子和解の映画としての印象が強かった思い出があります。彼らの老いは頭ではわかっても理解には遠かった。でも、段々わかってきました。ノーマンとエセルは二人でいるから強いし、二人でいるから生きていける。先は短いかもしれない。今日のこの日の大切さは、若い頃とは比べものにならない価値があることでしょう。湖を悠々と滑り泳ぐアビの姿に重ね合わせた老夫婦の人生と尽きせぬ愛が今心の底から感動を呼びます。こんな風に年を取りたい。ノーマンの頑固さは出来れば何とかして欲しいものの(笑)、こんな風に人生の終盤を迎えることが出来たら幸せだなと思う映画でした。

ヘンリー、キャサリン、二人とも今はもういないけれど、輝かしい経歴の晩年に傑作を残して役者としても納得のいく人生だったことでしょう。


☆この映画で「アビ」という鳥を知りました。それから気をつけて見ていると結構映画で「アビ」の鳴き声は使われているのですね。






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