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欲望という名の電車



A STREETCAR NAMED DESIRE

1951年アメリカ映画
122分 白黒

監督 エリア・カザン
出演 ヴィヴィアン・リー マーロン・ブランド
   キム・ハンター カール・マルデン 
   ルディ・ボンド


ニューオリンズの下町に住む妹を訪ねてきたブランチ・デュボア。故郷ではベルリーヴというお屋敷に住む名家のお嬢様であったブランチは、教師の仕事に疲れて休暇を取ってやってきたと最初妹のステラに言うが、実はベルリーヴを経済難で手放し、その後の荒れた生活から逃げるようにしてやってきたのだった。ステラの夫スタンリーは、粗野な男で「貴婦人」のブランチに何かと冷たく当たる。しかし、スタンリーの友人のミッチは、品の良いブランチに惹かれて彼女と交際するようになる・・・。


「欲望という名の電車に乗って、墓場という電車に乗り換えて、6つ目の角で降りたら極楽」と教えられてやって来たニューオリンズの妹ステラの家。極楽という名にはほど遠い典型的下町で、ステラたちの暮らしも満足いくものではありませんでした。しかし、ステラは夫スタンリーを心から愛し満足しきっている様子。かつて、軍隊にいたスタンリーは大変粗野な男でそのくせ計算高く、いちいちブランチの心を逆撫でするようなことばかり。おまけに酒に酔ってステラに暴力を振るうDV男。それでいて、ステラが逃げ出すと、「ステラ〜!!」と声の限りにステラを哀切に求める声を張り上げてステラの心を溶かしてしまうような男でした。根っからのお嬢様育ちであったブランチには正直なところ、理解も出来なければつきあいたくもないような男だったでしょう。それでも、ブランチには妹の家に滞在し続ける理由があったのでした。スタンリーの友人のミッチは、病気の母親と暮らす孤独な独身者で、街の中に一輪咲いた白バラのような貴婦人ブランチを崇め、交際するようになります。しかし・・・。

あまりに有名なテネシー・ウィリアムズの原作です。南部ニューオリンズを舞台に繰り広げられる没落した名家の令嬢の悲しい末路。ズシンと堪える内容です。ヒロインのブランチ・デュボア役は、多くの女優が一度は演じたいと思う役なんだそうで、この後にもアン=マーグレット(84年版、スタンリーがトリート・ウィリアムズ、ステラがビバリー・ダンジェロ、ミッチがランディ・クエイド)、ジェシカ・ラング(95年版、スタンリーがアレック・ボールドウィン、ステラがダイアン・レイン、ミッチがジョン・グッドマン)などがヒロインを演じています。今回のヒロイン、ヴィヴィアン・リーはご存じ「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラとして永遠に語り継がれる人ですが、今回人生の修羅場を知り尽くした元令嬢を鬼気迫る演技で熱演しています。それはスカーレットの美しさ、華々しさしか知らない人にとっては過酷であるかもしれないくらい。でも、とにかく素晴らしい演技です。
ヴィヴィアン・リーという人は、昔から一本のピーンと張った線だと感じることが良くありました。スカーレットの時は、その線に触ろうものなら怪我をしそうな鋭い線。このブランチ役では、やはりピーンと張っているのですが、触るとキーンという甲高い音を出しそうな線とでも言うのでしょうか。そしてあまり触ると、急にブチッと切れてしまう。トランクに入っている、昔の名残も少しはありそうな華々しいドレスや毛皮や香水、アクセサリーの数々が、逆に悲しさを感じさせます。行くところのなくなったブランチが求めたのは、肉親のいる心安らぐ場だったのでしょう。事実ステラは姉を愛していて、何かと世話を焼くのですが、スタンリーの方は・・・。

ヴィヴィアン・リーをはじめ、マーロン・ブランド、キム・ハンター、カール・マルデンを揃えた豪華な配役。この年のアカデミー賞でこの4人は皆ノミネートされ、ヴィヴィアンの主演女優賞、キム・ハンターが助演女優賞、カール・マルデンが助演男優賞を受賞しました。彼らの胸迫る演技のアンサンブルはあまりに見事です。野獣そのもののスタンリーに、お嬢様育ちと本能が不思議な共存を示すステラ、唯一まともな男でありながら電球の提灯シーンでは残酷になってしまうミッチ。人間とは愛と欲望の固まりなのだとしみじみ思わされてしまいます。また、南部もの独特のあの湿気たっぷりのネッチリ感がドロドロに見事に味を添えています。やたら出てくるブランチとバスルームも湿気いっぱい(笑)。暑さゆえに着ているのでしょうが、ブランチやステラの薄物のヒラヒラのドレスがかつての二人の幸せだったお嬢様時代を彷彿とさせて逆に辛い。

本当にあんなお姉さんがいたら大変そうだけれど、でも絶対憎めないのがブランチ・デュボア。裸電球は嫌いだと言いながら、電球に提灯をかぶせるブランチ。あのドレス、このアクセサリーに思いを馳せるブランチ。殿方の前に出る前は必ずお化粧を直さないと気が済まないブランチ。嘘で塗り固めるしかなかった彼女の人生の侘びしさがそこここに漂って何とも辛い気になります。極楽を一瞬でも求めた彼女の淋しさよ。行き着いたところは欲望の園でした。「見知らぬ方の善意におすがりして生きてまいりましたの」の言葉はあまりに哀切・・・。


☆「ステラ〜!」と叫ぶマーロン・ブランドのもの凄さよ。あまりの粗暴ぶりに、私はこの映画で彼が苦手になりました(苦笑)。だからキム・ハンターは彼を捨ててやがてロディ・マクドウォールのコーネリアスと再婚して平穏な日々を過ごしたのでしょうね(笑)。そう、「話すことが出来る人間」チャールトン・ヘストンが来るまでは・・・。







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