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八月の鯨



THE WHALES OF AUGUST


1987年アメリカ映画
カラー  91分

監督 リンゼイ・アンダーソン
出演 リリアン・ギッシュ ベティ・デイビス
ヴィンセント・プライス アン・サザーン
ハリー・ケリー・ジュニア
メアリー・スティーンバーゲン


リビーとセーラの老姉妹は、メイン州の小さな島にある別荘で夏を過ごしていた。そこは彼女たちが少女時代から夏を過ごしてきた思い出の地だった。その入り江には8月になると鯨がやってくる。鯨を見に駆けだしていった若い頃も今は遠い昔のこととなってしまった。目の悪いリビーは気むずかしくて、時々セーラに皮肉を浴びせる。しかし、辛抱強く世話をするセーラ。幼なじみのティシャや、老紳士マラノフも時々訪れて、海の音を聞きながらの静かな生活が流れていく・・・。


サイレント時代からの名女優リリアン・ギッシュ、1893年生まれ。トーキーになってからの大女優ベティ・デイビス、1908年生まれ。怪奇役者として一世を風靡したヴィンセント・プライス、1911年生まれ。この映画でアカデミー助演賞にもノミネートされたアン・サザーン、1909年生まれ。一番若い西部劇スターだったハリー・ケリー・ジュニア、1921年生まれ。ハリウッドを担ってきたかつてのスターたちが集結して作った何とも静かで心にしみ入る映画です。

リリアン・ギッシュとベティ・デイビスは実年齢はリリアンの方がずっと年上なのですが、彼女が妹役でベティ・デイビスが姉役を演じています。実際、ベティ・デイビスはかなりやつれていて(病気で目が悪いという設定だったと思いますが)、思い通りにならない自分の体が疎ましくて妹に当たり散らし、妹はじっと我慢して姉の世話を続けます。このあたり、1960年代にベティ・デイビスが復活していくつも主演した恐怖映画の彼女を彷彿とさせるんですね。ベティ・デイビスはこの映画から2年後に亡くなっていて、それを思うと彼女のやつれ方も演技だけではなかったのかもしれないと今はしんみりした気分になってしまいます。

リリアン・ギッシュは90を遙かに過ぎているのに、可愛らしさがなくならない人でした。1910年代に演じていた可憐な乙女役のまま年を取ったみたい。わがままな姉にかしづくことを負担とも思わない心の優しさと、1人きりで亡き夫との結婚記念日を着飾って祝う可愛らしさをいくつになってもなくさない人でした。あの夜中に1人で祝うシーンと彼女がひっそりとかけるネックレスのシーン、とても良かったですね。

かつての怪奇スター、ヴィンセント・プライスも訳ありの老紳士として、老女たちのプリンス的存在として楽しませてくれます。アン・サザーンだけは、ちょっとかしましいかき回し役。彼ら、彼女たちのハーモニーが実に自然で見事です。

特に事件が起きるわけでもなく、淡々とした日々の生活を描いているのですが、それでいて何故こんなに心惹かれるのでしょう。彼女たちは素敵な年の取り方をしています。この映画を見て、老後はこんな風になりたいという願望を持った人もいるでしょう。孤独でありそうで、孤独でない。人が滅多に訪れるわけではない小さな島で、一見孤独そうな生活でありながら彼女たちは自分たちなりの生を思う存分生きています。彼女たちの思い出の詰まった地で。そこには充実感さえ感じるのです。

彼女たちの眼前に広がる美しい海。その寄せる波、返す波は彼女たちの残された一瞬、一瞬を表しているようです。波の音を聞きながら、彼女たちは残された日々を静かにここで過ごしていくのだろうなあ、と涙さえ浮かぶような素敵な映画でした。


☆彼女たちの若い頃の回想シーンで、鯨を見に真っ白なドレスで飛び出すシーンが素敵でした。そんな風に若い頃から、彼女たちはおしゃれだったのでしょう。年を経てもおしゃれ心を失わない彼女たちの姿にジーンと来てしまいました。






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