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子鹿物語



THE YEARLING

1946年アメリカ映画 MGM カラー 128分

監督 クラレンス・ブラウン

出演 グレゴリー・ペック ジェーン・ワイマン 
クロード・ジャーマン・ジュニア
チル・ウィルス フォレスト・タッカー


マージョリー・キーナン・ローリングスのピュリッツアー賞を受けた原作をテクニカラーで映画化した名品です。
1870年代、フロリダの森林地帯に開拓農民として暮らすペニー・バクスターは、美しい妻オリーと11歳の可愛い息子ジョディと共に毎日の労働に明け暮れながらも心豊かな日々を送っていました。快活だった妻オリーは、子供を幼少時に3人も亡くしたせいで今は心を閉ざしてしまっているのが気がかりでしたが、息子のジョディとは気の合った仲間としていつでも一緒でした。
ある日、いなくなった豚を追って森に入ったペニーはガラガラ蛇に噛まれてしまいます。ペニーは居合わせた牝鹿を殺してその心臓と肝臓を取り出して毒を吸い出す応急措置を施し、一命を取り留めます。その鹿には幼い子供がいました。前からペットが欲しくて仕方がなかったジョディは、その子鹿を捜しだしフラッグと名付けて育てます。その日から、ジョディとフラッグはいつも一緒。共に寝て、共に森を駆け回る日々が続きます。しかし、大きくなってきたフラッグは作物を荒らすようになります。作物で生計を立てているバクスター家には大損害の連続。遂にペニーは心を鬼にして、ジョディにフラッグを撃ち殺すように命じるのです。しかし、ジョディは・・・。


有名な原作ですから、子供の頃に触れられた方も多いでしょう。
この映画は私も小さい頃に見て、感慨を受けました。

少年と鹿の友情物語とだけ見られがちですが、ベースになっているのは開拓農民の厳しい生活です。毎日毎日田畑を耕し、水をやり、家畜の世話をする生活。それでも、天候によって今まで費やしたお金と労力と希望の全てが駄目になってしまう。
何日も降り続く雨に作物をすっかり駄目にされ、泣き崩れる妻や呆然とする息子に、こういう目に何度も遭ってそれでも人は立ち直るんだ、と諭すペニーの姿に、今日のアメリカを作ってきた礎たる強さを見ました。

家に井戸がなくて泉に水を汲みに行く毎日に、遂にペニーは妻に言います。今度の作物でお金を作って井戸を作ろう、と。妻のオリーは「いつでも好きなだけ水が使えるのね。少しぐらい水をこぼしても平気なのね」と、歓喜を通り越した夢を見ているような顔で言うシーンは大変心に残りました。主婦としてオリーはそれまでどれほど大変な思いをしてきたのでしょうね。蛇口から水が当たり前のように出る生活を大切にせねば、と真摯な気持ちになってしまいます。

それから、町へ行ったペニーとジョディがオリーにおみやげに布を買ってくるシーン。ほとんど表情を変えずに、どちらかといえば小言ばかりのオリーが布を見てしばし呆然として、それから「こんなもの高いのに。誰が買って来てと言った?」と口では怒りながら、一人になったときにその布に頬ずりして涙を流すシーンもジーンとします。やはり、女性にはほんの少しのおしゃれがこんなに嬉しいんですよね。

近くと言っても馬でかなりの距離を行くフォレスター家の人々。ちょっと変わった人々ですが、そこの末息子で足の悪いファダウィンとジョディは友達です。「パパと船乗りのオリバー(町に住んでいて時々船に乗って航海している人)、そしてファダウィンの3人が僕の友達だよ」とジョディは言います。そのフォレスター家とはちょっとゴタゴタが起きるのですが、いざペニーが命の危機に立たされるとすぐに助けてくれる隣人愛には感動しました。「犬でも助けるよ」と彼らは言います。人里離れた森の中で、助け合いがいかに大切か身にしみてわかります。

今、ジョディにはフラッグという友達が出来ました。しかし、ファダウィンは病気で亡くなり、オリバーは結婚して他の町に転居することになります。パパはいるけれど残された友達はあとはフラッグだけ。「得ては失い、失っては得る」と寂しがるジョディにペニーは言います。でも、親の心子知らずというかフラッグはせっせと種まきしてやっと出た若芽を全部食べてしまい、ジョディが必死に張り巡らした柵も軽々と跳び越してしまうのです。勿論フラッグに悪気なんかあるはずはないのですが、一家にとっては死活問題なのです。森に帰そうとしても帰ってきてしまう。野生の動物をペットにした時に必ず持ち上がる問題がジョディに降りかかります。でも、フラッグはジョディに残されたパパ以外のただ一人の(一匹の)友達。それを自分の手で撃ち殺せるでしょうか?

これは様々な哀しみを経て、それでも生きていくことを学ぶ少年の成長物語です。美しい映像とは逆に過酷なくらいリアルな現実をしっかりと見据えています。

主演のグレゴリー・ペック様(何故彼だけ様つきかって?)は、この頃30に手が届いたというところでジョディのパパ役にはちょっと若すぎるのですが、つやつやしたお顔が神々しく、すでに包容力を見せる優しいパパを熱演しています。このちょっと前にデビューした彼は、一躍時代の寵児として各社から好企画でひっぱりだこの大人気でした。どんなに汚れた格好をしていてもやっぱりハンサムで見栄えがします(笑)。

頑なに心を閉ざした妻役のジェーン・ワイマンも名女優。ロバート・レーガン元大統領の前妻でもありました。最近では「ドクター・クイン」で初めの頃のミケーラの母親役を演じていました。時々見せるほんのちょっとした喜びや涙が、押さえた演技の中だけに余計光ります。

アカデミー作品、監督、主演男優、主演女優の主要部門全てにノミネートされた名作です。


☆子鹿の跳躍力凄いんですよね。せっかくジョディが張り巡らした柵をいとも簡単にクリアー。高跳びの選手だったら、何とも羨ましい思いでそのシーンを見たことでしょう。






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