自由への舞〜アニシナ&ペーゼラ
































2002/2/26
マリナ・アニシナ&グウェンダル・ペーゼラ

Marina Anissina and Gwendal Peizerat

フランスのフィギュアスケート アイスダンス選手


真っ赤な髪のアニシナとブロンドを時にポニーテールに束ねてくるペーゼラ。アニシナ&ペーゼラは実に絵になるカップルだ。ルックスだけでなく、勿論彼らのスケーティングは高度な技術に裏打ちされている。故に最初のコンパルソリーでも高得点で首位になる実力があるのだ。

彼らのコンビは長い。94年からペアを組んでいる。ロシアでアイスダンスをしていたアニシナが、パートナーが他の女性とのコンビを望んだため(その後彼らは夫婦に)、新天地を求めてフランスのペーゼラにペアを組むことを申し出たのが最初だという。

年々彼らはうまくなった。ルックスだけでなくスケーティングも独創的だった。90年代初頭、アイスダンスに革命をもたらした同じフランスのデュシェネー兄妹の伝統を受け継いだとも言える、独創的なダンスを考え出した。特にアニシナが男性のペーゼラをリフトするという画期的な技で話題になった。それなりの身長も体格もあるペーゼラをリフトするというのは、スケーティングのスピードを利用してのこととは言え、簡単なことではないだろう。


98年の長野オリンピックでは銅メダルを獲得。その後世界チャンピオンにも輝いた。NHK杯の常連で、日本にもファンが多い。その彼らが満を持して望んだソルトレークオリンピックだった。
アイスダンス競技開始直前にペアのジャッジ問題で、スキャンダルが起き、彼らにはストレスだったことだろう。「完璧な演技をして優勝すること」、ペーゼラが直前に言った。それなら何の文句も出ない。
そして、彼らは完璧な演技を披露した。オリジナルダンスでのフラメンコ。アニシナの妖艶な美しさと赤い髪が、情熱のフラメンコに何と合うことだろう。終わった後のアナウンサーの第一声が「素晴らしい!」だった。


フリー演技は「I have a dream」で始まるマーティン・ルーサー・キングの演説を引用しての「自由」だった。ペーゼラが縄で縛られたような衣装で滑る。アニシナが自由の女神を演じる。自由を束縛されている人間が、やがてその尊厳を取り戻す様をドラマティックに荘厳に踊りきった。
アイスダンスにはあまり転倒シーンはないのが普通なのに、今回は他のペアに転倒シーンが続出した。それだけ、外の話題に振り回されストレスを感じていたのだろうか。しかし、アニシナ&ペーゼラは平常心で踊りきった。人間の自由と尊厳をテーマに選んだのも、さすが「自由、平等、博愛」のフランス革命のフランスらしい。そういえば自由の女神もフランスがアメリカに贈ったものだった。


表彰式で見るからに気丈そうなアニシナの眼に涙が光っていた。2位になったカップルこそは昔アニシナが一緒にペアを組んでその後拒否された男性とその後の妻だったのだ。異国を選んだ彼女には、言いしれぬ苦労があっただろう。昔のパートナーを見返してやりたいという思いも人一倍あっただろう。そして、結果彼女はペーゼラという素晴らしいパートナーを得た。いかにも明るそうなペーゼラは、アニシナの苦労を癒してくれることもあったかもしれない。

彼らもまたフィギュア史上に残る名選手に名を連ねた瞬間だった。そして、フィギュア会場の表彰台で「ラ・マルセイエーズ」が流れるのは実に70年ぶりという。デュシェネー兄妹、キャンディローロ、ボナリーなど幾多の名選手を輩出してきて、世界チャンピオンも生んだけれど、オリンピックでは他のメダルはあっても金メダルだけは取れなかったフランス勢だった。その歴史を、この素敵なペアが塗り替えた。



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